12回戦 朝練開始-4

 ボクとりん、絶と脇名先輩わきなせんぱいが、

それぞれアースの4すみにあるスタンバイエリアに立つ。




 ミックスダブルスの場合は、

必ず剣士けんし魔法まほう使いがたがちがいになるように立つルールだ。




 ピー!と審判しんぱんがホイッスルを鳴らした。


 試合スタートである。


 ボクはダダダ……!とりんの前方へななめに、

りんもボクの前方へななめに走り出した。


 同じく絶は脇名先輩わきなせんぱいの前方へななめに、

脇名先輩わきなせんぱいは絶の前方へななめに走っている。


 ペアと合体ジョイントするためだ。




 剣魔けんまではルール上、ホイッスルの前にあらかじめ合体ジョイントするのは反則である。


 そのため、ホイッスルが鳴ると同時にペアのところへ走り、

合体ジョイントしてもらってから攻撃こうげきに移るのがオーソドックスなやり方だ。


 そしてミックスダブルスでは、当然のことながら、

射程が短い剣士けんしが前に立ち、

射程が長い魔法まほう使いが後ろに立つのが普通ふつうである。


 この剣士けんしが前、魔法まほう使いが後ろというフォーメーションを、『正常位置』。


 あるいは『フロントスタイル』と呼ぶ。


 逆に魔法まほう使いが前、剣士けんしが後ろというフォーメーションは、『後背位置』。


 あるいは『バックスタイル』と呼ぶ。


 剣士けんし魔法まほう使いが横並びになるフォーメーションは、『双頭そうとう位置』。


 あるいは『ダブルヘッダー』と呼ぶ。


 これ以外にも、

剣士けんしが前気味だが魔法まほう使いとななめの位置になるフォーメーションを、

松葉杖まつばづえをついてケンケンしている様子になぞらえて『松葉位置』と呼んだり、

逆に魔法まほう使いが前気味で剣士けんしななめの位置になるフォーメーションは、

『逆松葉』と呼んだりする。




 と、パン!とりんが絶へと走る脇名先輩わきなせんぱいへ火球の魔法まほうを発射した。


「ハッ!」


 脇名先輩わきなせんぱいは、それを片手側転で回避かいひし、

すぐさまドピュッ!とりんへ水球の魔法まほうを発射する。


 りんもそれをゴロッ!と横転するようにして回避かいひした。


 おたがいに合体ジョイントに向かうのを牽制けんせいした形だ。


 だが、どちらもきれいに回避かいひしたので、ほとんど影響えいきょうは見られない。


「絶くん!行くよ!」


 脇名先輩わきなせんぱいさけびながら、バッ!と絶と交錯こうさくする。


 ブワワッ!と絶の聖剣せいけんが水を帯びた。


「ムロさん!ワタクシ達も行きますわよ!」


 りんもボクにさけぶと、ボクの聖剣せいけんに右手をかざしながら

走るボクとバッ!と交錯こうさくする。


 メラメラッ!とボクの聖剣せいけんが大きなほのおを帯びた。


「!」


 絶と脇名先輩わきなせんぱいが、おどろいたようにボクの聖剣せいけんを見る。


「あらま~……!」


 アースの外から見ていた下井先生も、おどろいたように口に出した。


 パン!パン!と、りんがすかさず火球の魔法まほう脇名先輩わきなせんぱいのほうに連射した。


 ビュッ!バシン!


 ビュッ!バシン!


 それを絶がさえぎるように移動して、水を帯びた聖剣せいけんたたき落とす。


 脇名先輩わきなせんぱいは後方へ下がり、絶と正常位置になると、

ドピュッ!とボクに向けて水球の魔法まほうを発射した。


 ビュッ!バシン!


 ボクも絶に負けじと聖剣せいけんで水球をたたき落とす。


 ボクはりんと松葉位置の状態から、

ダダダ……!と絶に目がけて走り出した。


 絶もボク目がけて走って来る。


 パン!パン!


 ドピュッ!ドピュッ!


 そこへりん脇名先輩わきなせんぱい援護えんご射撃しゃげきしてくる。


 ビュッ!バシン!ビュッ!バシン!


 ビュッ!バシン!ビュッ!バシン!


 ボクと絶は、ほぼ同時に聖剣せいけんって、それをたたき落とす。


 と、

シュー……と絶の聖剣せいけんの水が消えてしまった。


 合体ジョイントしていた脇名先輩わきなせんぱい魔力まりょくが使い切られたのである。


「くっ……」


 絶は険しい表情だ。


「(チャンス……!)」


 ボクは絶の上半身に向けて、ビュッ!と聖剣せいけんき出す。


「!」


 絶はそれに反応して、バッ!と聖剣せいけんの腹を構えたガードの姿勢を取った。


 ボクの聖剣せいけんから、合体ジョイントした魔力まりょくち出す射聖ショットが行われると思ったのだ。


 だが、ボクのこのきはフェイントだった。


 すかさずボクは、右腕みぎうで全体をひねるようにして、

聖剣せいけんを絶の下半身のほうへカクンとかたむけ、

バンッ!と射聖ショットする。


 ボッ!


「熱っ!」


 絶がたまらずさけんで飛びね、

ボクの射聖ショットが命中した右太ももをプロテクターの上からパンパンと手ではたく。


 防具に当たったとはいえ、

威力いりょくの高い火属性の射聖ショットを受けたので当然の反応だ。




 実は、射聖ショットで発射される魔力まりょくというものは、

挿入インサートで込められて合体ジョイントした魔力まりょくに対して、

魔法まほうのレベルで言えば1、2段階ほど上の威力いりょくね上がるのである。




 ピー!と審判しんぱんがホイッスルを鳴らし、


1ワン-0ゼロ!」

とスコアがコールされる。


「やりましたわね!ナイスショットですわ!」


「うん!ありがとう!」


 りんとボクは言いながら、パァン!とハイタッチを交わす。


「(ボクの聖剣せいけんは短くて軽いから、

  動かすだけならかなり素早くあつかえる……!

  でも、まさか全国レベルの選手にも通用するなんて……!)」


 ボクは内心、かなり興奮していた。




 4人がアースの先ほどとは左右を入れえたスタンバイエリアに

それぞれ入ると、

ピー!と再び審判しんぱんのホイッスルが鳴らされた。


 ダダダ……!とボクとりん、絶と脇名先輩わきなせんぱいは走り寄る。


 ブワワッ!


 メラメラッ!


 おたがい、合体ジョイント完了かんりょうだ。


 パン!パン!とすかさずりんが火球の魔法まほうを絶に連射する。


 と、絶はそれをたたき落とさず、スイスイと回避かいひした。


 合体ジョイントした魔力まりょくを温存しようというわけである。


「!」


 それを見るとりんは、ザザッ!と走る方向を切り返した。


「……!」


 その動きを見た脇名先輩わきなせんぱいは、走る速度を上げた。


 りんは、絶が回避かいひできないよう、

絶と脇名先輩わきなせんぱいが一直線に並ぶ位置に移動しようとしており、

脇名先輩わきなせんぱいのほうは、そうさせまいと逃げているのだ。


 一方、ボクと絶のほうは、

間もなく絶の聖剣せいけんの間合いに入るという位置まで走り寄っている。


 と、


「ムロさん!」

りんさけぶと同時に、パボン!と音がした。


「!」


 ボクはりんの意図を察して、すかさずその場にバッ!としゃがみむ。


 ビュッ!バシン!


 絶がボクの背後からすごいスピードで飛んで来た火球を、

難なくたたき落とした。


 りんがボクの体と絶の体が重なったタイミングで、

つまりボクをブラインドにして加速する火球を発射したのだ。


 だが、絶はそれを読んでいたのか、

聖剣せいけんで防がれてしまったわけである。


「(さすが、全国2位……!)」


 ボクは思いながら、立ち上がりつつ聖剣せいけんをビュッ!と絶に向かってき出す。


 フッ!


 絶が一瞬いっしゅんでボクの聖剣せいけんき出された位置から右に移動すると、

ビュッ!と聖剣せいけんり下ろした。


 ドビュッ!


 ビシャッ!


「うぐっ!?」


 ザッ!


 ボクは、すごいスピードで飛んで来た水球を右脚みぎあしに食らって、

たまらずヒザをアースについた。


 ピー!と審判しんぱんがホイッスルを鳴らし、


1-1ワンオール!」

とスコアがコールされる。


「ナイスショットー!」


「ありがとうございます!」


 脇名先輩わきなせんぱいと絶が言いながら、パァン!とハイタッチを交わした。


「ドンマイですわ!」


「ごめん!」


 りんとボクも言葉を交わす。


「(まるで絶が消えたかのようだった……!

  おそろしいフットワークだ……!)」


 ボクは、内心で舌を巻いていた。

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