11回戦 朝練開始-3

 アースの対角のスタンバイエリアにボクと絶がそれぞれ立つと、

審判しんぱんりんがピー!とホイッスルを鳴らした。


 試合スタートだ。


 ボクはダダダ……!と、一直線に絶に向かって走り出した。


 絶もスルスル……と、ほぼ足音を立てずにボクに向かって走って来る。




 剣士けんし同士の試合では飛び道具が無いし、

剣魔けんまにはアース場外に出ると失点となるルールもあるので、

基本的にはこのようにアース中央へ真っ直ぐ向かうのがセオリーだ。




 そのまま、絶の聖剣せいけんのリーチまでおたがいに走り寄る。


 と、ビュッ!と絶がボクのみ出そうとした足先をるように、

しゃがみながら聖剣せいけんった。


 聖剣せいけんは、その大きさに比例して重量を増す。


 両手でっているとはいえ、

巨剣きょけん

つまり巨大きょだい聖剣せいけんの絶の場合、かなりの重量のはずなのに、

ものすごいスイングスピードである。


 だが、ボクがみ出そうとした最後の一歩はフェイントだ。


 ボクは軸足に、み出しかけた足を引き付けるようにもどしている。


 絶の聖剣せいけんは、紙一重で空を切った。


 ボクはそのまま、ダンッ!と両足でジャンプするように絶に飛びかかる。


 そこへ絶は、ギュルン!と先ほど聖剣せいけんった勢いでそのまま体を回転させ、

ビュッ!と続けざまに聖剣せいけんってきた。


「(速っ!)」


 ボクはりかぶりかけていた聖剣せいけんをすぐにり下ろし、

絶の聖剣せいけんに何とか自分の聖剣せいけんを合わせる。


 ガキィン!


「!?」


 すごい威力いりょくだ。


 空中にいたボクの体全体が、

グイッ!とされるように動かされた。


 ゴロゴロと横に転がるようにして着地したボクは、すぐさま体勢を立て直す。


 と、そこへ絶が素早く横からりかかる。


「うひ!」


 ボクは思わず口に出しながら、それに何とか聖剣せいけんを合わせた。


 ガキィン!


 ボクの体勢が再びくずされる。


 絶は再びそのまま回転する。


 体勢を立て直し、ボクは再び聖剣せいけんを合わせる。


 ガキィン!


 絶はさらに回転して、再び聖剣せいけんる。


 ガキィン!


 絶はどんどん加速していく。


 ガキィン!


 さらに加速した。


 ガキィン!


 「(マズイ!)」


 バッ!


 ビュッ!


 ボクは絶の聖剣せいけんをくぐるように前転し、

聖剣せいけんった絶の右側面に移動した。


「!?」


 聖剣せいけん空振からぶりした絶は、わずかに体勢をくずす。


 ボクが聖剣せいけんを右の裏拳うらけんり出す要領でる。


 ビュッ!


 が、体勢をくずした絶の体が前方に流れたので、

ボクの短い聖剣せいけんは届かず、空を切った。


「くっ……!」


 ボクは絶に一歩み出しながら再び聖剣せいけんりかぶった。


 ビュッ!ドッ!


 り向きざまに絶がった聖剣せいけんが、

ボクのプロテクターを付けた左腕ひだりうでにヒットした。


「ぐあっ!」


 ボクは思わず悲鳴を上げる。


 プロテクターしだというのに、かなり痛い。


 ピー!とりんがホイッスルを鳴らし、


1ワン-0ゼロですわ!」

とスコアをコールする。




 アースの最初とは逆の対角のスタンバイエリアにボクと絶がそれぞれ立つと、

審判しんぱんりんがピー!とホイッスルを鳴らした。


 ボクと絶はおたがいに走り出す。


 絶の間合いに入る直前、絶が右腕みぎうで側に一瞬いっしゅんタメを作ったかと思うと、

ものすごいスピードでビュッ!と聖剣せいけんななめにってきた。


 ガキィン!


「(!?

  しまった!)」


 ボクの聖剣せいけんはじかれてしまう。


 間合いの外のはずだった。


 だが、1ポイント目の一撃いちげきを脳裏に刻まれていたボクの身体は、

無意識にガードしようと反応し、うてばしてしまったのだ。


 絶がそのすき見逃みのがすはずがない。


 いていく聖剣せいけんの勢いを一瞬いっしゅんで殺し、

すかさず両腕りょううでを大きくひねるようにして、

ボクに向かって一歩みながら、

今度は逆からななめに聖剣せいけんり下ろす。


 ビュッ!


 ゴロッ!


 バックステップで回避かいひするのは無理と咄嗟とっさに判断したボクは、

地面を横転するように絶の左腕ひだりうで側に向かって回避かいひした。


「!」


 ビュッ!


 立ち上がりながら、ボクは左腕ひだりうでだけで絶に向かって聖剣せいけんる。


 ズザッ!ビュッ!ズドッ!


 が、絶のほうが一枚上手だった。


 いた聖剣せいけんごとそのまま回転しつつ距離きょりを取り、

ボクの聖剣せいけんのリーチの外からカウンターでどうはらわれてしまった。


「うっぐ!?」


 ボクはその勢いでズザッ!と半歩ぐらい身体を持っていかれる。


 プロテクターが無かったらケガでは済まないような重い一撃いちげきだ。


 ピー!とりんがホイッスルを鳴らし、


2ツー-0ゼロですわ!」

とスコアをコールする。




 アースの最初にいた対角のスタンバイエリアにボクと絶がそれぞれ立つと、

審判しんぱんりんがピー!とホイッスルを鳴らした。


 ボクと絶はおたがいに走り出す。


 絶の間合いに入る直前、1ポイント目でそうしたように、

ボクはフェイントをかけ、一歩むフリをして立ち止まった。


 が、絶はそれを読んでいたのかさらに一歩んで

絶の右腕みぎうで側から聖剣せいけんる。


 ボクはそれに自分の聖剣せいけんを合わせるようにガードの構えをした。


ビュッ!ガキィン!ゴッ!


「!?」


 ガードしたはずなのに、

ボクの左ヒジの辺りのプロテクターに絶の聖剣せいけんがヒットする。


 その原因はすぐに分かった。


 なんと絶は、普通ふつうるようなイメージで聖剣せいけんったのではなく、

右腕みぎうでをしならせるようにして聖剣せいけんの先っちょ側を先走らせたのだ。


 ヒジを真っ直ぐばし、途中とちゅうから右の手首だけで聖剣せいけんって、

右腕みぎうで聖剣せいけんが『く』の字になるようにした感じである。


 うで側が先で聖剣せいけん側が後になるようなスイングを『ハンドファースト』、

逆に聖剣せいけん側が先でうで側が後になるようなスイングを『ハンドレイト』と呼ぶが、

それをさらに極端きょくたんにしたわけだ。


 これではボクの短い聖剣せいけん普通ふつうに受けてしまうと、ガードにならない。


 だが、こんな巨剣きょけんでそれをやってのけるとは、

ものすごい手首の強さと言わざるを得ないだろう。


 ピー!とりんがホイッスルを鳴らし、


「ゲーム!お兄様!1ワンゲームストゥ0ゼロですわ!」

とスコアをコールする。




 その後も、ボクはるわなかった。


 絶の巨剣きょけんの前に防戦一方で、

何度かあったチャンスも聖剣せいけんの短さで、ものにできずじまい。


 結局、絶に3スリー-0ゼロ3スリー-0ゼロのストレートで敗れた。




「ありがとう……ございました……」


 アースの中央の『*』マークの上で、

絶がハアハア言いながらボクに手を差し出した。


「ありがとう……ございました……。

 やっぱり……、さすがに……強いね……」


 ボクもハアハア言いながら手を差し出し、絶と握手あくしゅを交わす。


「いや……、フゥー……。スコア的には……、」


 絶が息をついて言いかけたところに、


「スコア的には大差ですけども、白熱してましたわね!」


 りんうれしそうに声をかけてきた。


 絶も大きくうなずき、


「ムロくんの聖剣せいけんが長かったら厳しかったよ」

と言ってから、『しまった』という顔になる。


「そうかもね……。

 聖剣せいけんが長かったらね……。

 ハハハ……」


 ボクは気にしていないフリをして笑った。


「(たら、ればの話ならいくらでもできる……。

  でも、実際問題としてボクの聖剣せいけんは短いんだ……。

  配られた手札、

  つまりこの聖剣せいけんで勝てるようにならなければ意味が無いんだ……)」


 ボクはそう思いながら、うつむく。


「その点は、ワタクシにお任せあそばせ!」


 りんが、自分の胸に右手を当てて言った。


「本当にボクとダブルスを……?」


 ボクは、まだ半信半疑だ。


「もちろんですわよ!」


 りんは、自信満々といった表情である。




「は~い!それじゃあ次はダブルスよ~!」


 下井先生がパンパンと両手をたたいて、みんなに声をけ、


「しょうがないから~、今日だけ女子同士で魔法まほうダブルスね~!」

と続けてから、


「あっ、脇名わきなちゃ~ん。

 今だけ絶クンと組めるかしら~?」

脇名先輩わきなせんぱいに声をけた。


 脇名先輩わきなせんぱいは、普段ふだんは部長の鬼頭先輩きとうせんぱいとミックスダブルスのペアだが、

今はいないためだ。


「ラジャーです!」


 脇名先輩わきなせんぱいが元気に返事をする。


「お相手はどうしましょうか~?

 夢路ゆめみちクンは~、さっき0ゼロ0ゼロで負けちゃってたわよね~?」


 下井先生がボクをチラリと見て、少し残念そうに言った。


 ボクはギクリとする。


「仕方ないから~、アタシとりんちゃんあたりで組んでみる~?」


 下井先生が言う。


「(確かに下井先生の言う通りだ……。

  実力差が有り過ぎては、絶の練習にならないだろう……)」


 ボクが思っていると、


「先生、ちょっとお待ちになって!」

りんが挙手してさけんだ。


「お?何かしら~?」


 下井先生がたずねると、


「ワタクシ、夢路先輩ゆめみちせんぱいとダブルス組んでみたいんですの!」


 りんは、大声で宣言した。




 一瞬いっしゅんの静止。




 クスクスと女子の一部が笑い出した。


 ボクは、少し顔をせる。


「ごめんね~?

 たぶんりんちゃんの魔力まりょくじゃ~、

 夢路ゆめみちクンの聖剣せいけんもきっと中断しちゃうから~……」


 下井先生も申し訳なさそうに言うが、


「そこはかりございませんわ!」

と、りんは一歩も引かない。


「そう~……?

 どうしてもって言うなら止めないけど~……。

 中断したら試合のほうも中断するわよ~……?」


 下井先生が、しぶしぶ折れた。


「レロレロ……。フフフ……。

 絶くんの大きいね……。レロ……。

 鬼頭きとうくんのよりも大きい……。レロレロレロ……」


 脇名先輩わきなせんぱいは絶の聖剣せいけんの前にヒザをついて、

もうオーラルコミュニケーションをしている。


「さあムロさん!

 ワタクシ達も負けていられませんわ!

 勝負はもう始まってましてよ!」


 りんもボクの前にヒザをついた。


「う……、うん……」


 ボクは、なえていた聖剣せいけんをビュッ!とくと、

りんの前に差し出す。


 チュッ!


 りんが、音を立ててボクの聖剣せいけんにキスをした。


「!?」


 ボクは、それを見て目を丸くする。


「レローレロー……。

 ああ……、やっぱりかわいいですわ……。レロレロ……。

 こんなかわいい聖剣せいけんめられるなんて……。レロー……。

 たまりませんわよ……。レロレロレロ……。

 ツルツルじゃなくてザラザラなのもおもむき深いですわ……。レローレロー……」


 りんは、長い舌をボクの聖剣せいけんに器用にわせ、

だ液をむように念入りにめていった。


「(ボクなんかの聖剣せいけんに、

  こんな情熱的にオーラルコミュニケーションしてくれるなんて……!

  うれしいけど、なぜだかすごくずかしいいい……!)」


 ボクは、顔を真っ赤にしてしまう。


「……さあ!準備万端ばんたんですわ!」


 りんが立ち上がった。


 すっかりボクの聖剣せいけんはベトベトで、ヌラヌラと光を反射している。


「よろしくお願いします」


「よろしくお願いいたしますわ」


 ボクとりん、絶と脇名先輩わきなせんぱいがアースに入り、

中央の『*』マークの上でそれぞれ握手あくしゅを交わした。

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