10回戦 朝練開始-2

 早速、りんが前方へジグザグにステップしながら距離きょりめつつ、

パン!パン!と火球の魔法まほうを2連射する。


 脇名先輩わきなせんぱいは、


「ハッ!」

と片手側転で飛んで来た火球をけ、すぐさま水球の魔法まほうをドピュッ!と発射した。


 りんのほうは飛びみ前転の要領で、

バッ!とくぐるように飛んで来た水球をけ、さらに距離きょりめる。




 どちらも基本動作ではやらない動きだが、これまた有効なテクニックである。


 ちなみに、アースは土属性の魔法まほうも使えるように土と砂が混じった地面だが、

剣魔けんまでは頭にもヘルメット状のプロテクターをかぶるので、

顔やかみの毛がよごれる心配はあまり無い。




 と、再びりんがパボン!と火属性魔法まほうを発射する。


 ボッ!


「キャッ!?」


 脇名先輩わきなせんぱいのプロテクターを付けた左の太ももに、

すごいスピードでヒットした。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴り、


1ワン-0ゼロ!」

とスコアがコールされる。




 このように、魔法まほう使いの場合は魔法まほうによる攻撃こうげきが、

剣士けんしの場合は聖剣せいけんによる攻撃こうげきが、

相手の体のどこかにヒットすると1ポイントとなる。


 ちなみにウチの部では、アースが隣接りんせつしていて分かりにくいということで、

アースごとに微妙びみょうに音の高さのちがうホイッスルを使用するようにしている。


 だが、自分が試合をしていると

『今の攻撃こうげきにホイッスルが鳴った』

というのは意外と判別できるもので、

同じ音のホイッスルが使われていたとしても、

そんなに混乱が起きることは無い。




 ボクと絶は、りんのプレイに、


「ナイスショットー!」

と声を上げ、


「いいぞ!いいぞ!本能!

 行け!行け!本能!

 もう1本!」

とパンパンと手拍子てびょうしでリズムを取りながら応援おうえんする。




 りんは火属性が得意だそうだが、脇名先輩わきなせんぱいは水属性が得意なので、

たがい相性は悪い。


 打ち消し合ってしまう関係だからである。


 だが、今のりん攻撃こうげきは、

先に左手で発射した火球の魔法まほうに、

後ろからビンタする感じで右手を近づけて

もう1つの爆発ばくはつ魔法まほうを重ねるようにつことで、

先に発射した火球を加速させてぶつけたのだ。


 プロ選手の剣魔けんまの試合でもたまに見られるテクニックの1つだが、

爆発ばくはつの位置をうまくコントロールしないと

ねらった方向に真っ直ぐ飛ばないので、

かなりの練習を必要とするはずである。


 いわゆる高等テクニックというやつだ。


 この攻撃こうげき方法は、水属性ではちょっとマネできない。




 りん脇名先輩わきなせんぱいが先ほどとは逆の対角にあるスタンバイエリアに入ると、

ピー!と再び審判しんぱんのホイッスルが鳴らされた。


 りんがまたジグザグに走り出す。


 と、

ドビュルビュルーッ!と今度は脇名先輩わきなせんぱいのほうが先手を取った。


「!」


 りんが、ズザーッ!とん張って立ち止まる。


「あっ!?」


 ボクと絶も、思わず口に出した。


 レベル4か5ぐらいはありそうな、大きな水球の魔法まほうが発射されたのだ。


 その水球をバリアのように自分の前にキープしつつ、

そのまま脇名先輩わきなせんぱいりんのほうへと小走りに進んで行く。


「(どうやって対処するんだろう!?)」


 ボクはゴックンとツバを飲みむ。


「……」


 だがなんと、りんは棒立ちだ。


「!」


 脇名先輩わきなせんぱいは、そのまま水球をりんへとぶつける。


 ザッパーン!


 りんは、何とかたおれないように前かがみになってん張りはしたものの、

その姿勢のままズズズ……とし流されて、全身水浸みずびたしになった。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴り、


1-1ワンオール!」

とスコアがコールされる。




 相手の大技にえて何もせず、

一方的に魔力まりょく消耗しょうもうさせて、自分は魔力まりょくを温存する。


 剣魔けんまでは、どんな大技を受けても1ポイントずつしか失点しないので、

こういった選択せんたくもまた戦略の1つとなるわけだ。




「いいぞ!いいぞ!脇名わきな

 行け!行け!脇名わきな

 もう1本!」


 ボクと絶が、パンパンと手拍子てびょうしでリズムを取りながら応援おうえんする。


 だが、りんえて何もしなかったので、

脇名先輩わきなせんぱいは次の戦略を練っているのか、


「うーん……」

とうなりながら難しい表情だ。




 アースの最初にいた対角のスタンバイエリアに再び2人が入ると、

ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされる。


 と、開始直後にりんがパン!パン!と上空へ向けて火球の魔法まほうを2連射した。


「(!

  あれはまさか……!?)」


 ボクは火球の行方を見上げつつ思う。


 脇名先輩わきなせんぱい一瞬いっしゅん上空へと顔を向けたが、

すぐに前に走り出し、ドピュッ!ドピュッ!と水球の魔法まほうりんに2連射した。


 りんはズザッ!ズザッ!と

ジグザグに動いて水球をける。




 けたあとにワンテンポ置いて、

パン!パン!とりん脇名先輩わきなせんぱいに目がけて火球の魔法まほうを2連射した。


 脇名先輩わきなせんぱいのほうも、ドピュッ!ドピュッ!と水球を2連射して、

なんとりんの火球にぶつける。


 ジュッ!ジュッ!と火球と水球が相殺された。


 脇名先輩わきなせんぱいは、そのままりんへの最短ルートへ1歩み出す。


 そこへ、ボッ!ボッ!と火球が落下してきた。


「キャア!?」


 脇名先輩わきなせんぱいのプロテクターを付けた右肩みぎかたの辺りに1発が命中する。


 最初にりんが上空へ発射した火球が、このタイミングで落下してきたのだ。


「(院能エインの得意技、遅降弾ラググレネードボンバー……!

  まさか実戦に取り入れるなんて……!)」


 ボクは思わずパンパン!と大きめの拍手はくしゅを送り、


「ナイスショットー!」

と絶と共に声を上げた。




 相手の動きばかりか、屋外なので風まで読まないといけないはずなのに、

タイミングも位置もドンピシャである。


 しかも同時に前方からも攻撃こうげきしていた。


 前方と上方からの同時攻撃こうげきでは、けるのも防ぐのも難しいだろう。




 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴り、


2ツー-1ワン!」

とスコアがコールされた。


「いいぞ!いいぞ!本能!

 行け!行け!本能!

 もう1本!」


 ボクと絶が、パンパンと手拍子てびょうしでリズムを取りながら応援おうえんする。




 りん脇名先輩わきなせんぱいがアースの対角にあるスタンバイエリアに入ると、

ピー!と再び審判しんぱんのホイッスルが鳴らされた。


 パン!とすぐさまりんが上空に火球の魔法まほうを発射する。


「また!?」


 脇名先輩わきなせんぱいが思わずと言った感じで口に出し、立ち止まった。


 脇名先輩わきなせんぱいは、すぐさま上空を確認しつつ、

風上になるりんから見て左手側に動こうとする。


 パボン!

とそこにりんが加速する火球を発射した。


 ボッ!


「キャア!?」


 脇名先輩わきなせんぱいみ出した、右足のクツの先っちょあたりに命中する。


「(ものすごいコントロールだ……!)」


 ボクは内心かなりおどろいた。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴り、


「ゲームセット!ウォンバイ本能!3スリー-1ワン!」

とコールされる。


 りんの勝利だ。




 剣魔けんまの試合では、3ポイント先取で1ゲーム取得となる。


 そして、中学生の多くの大会では、

魔法まほうシングルスでは1ゲーム、

剣士けんしシングルスとダブルスでは2ゲーム先取で勝利だ。


 また、剣士けんしシングルスとダブルスでは、1-1でゲーム数が並ぶと、

タイブレイクをするルールを採用している大会が多い。


 タイブレイクになった場合は、4ポイントを先取したほうが勝利だ。


 なおタイブレイクでは、3-3でポイントが並ぶと、

テニスや卓球たっきゅうと同じくデュースとなって、

2ポイント差をつけるまでゲームが続くことになる。




「右足、大丈夫ですの?」


 再びアースの中央の『*』マークの上で脇名先輩わきなせんぱい握手あくしゅをしながら、

りん脇名先輩わきなせんぱいの右足を見つめて心配そうにたずねる。


「クツの先っちょだったから、へーきへーき。

 いやー、しっかしさすがに強いわねー……」


 脇名先輩わきなせんぱいは、とてもくやしそうだ。


「チュー……。

 先輩せんぱいもまだまだびしろございましてよ」


 握手あくしゅを終えたりんが、魔力まりょくポーションをストローで吸うと言った。


「ゴックン。

 本当?

 アドバイスあったらちょうだいよ」


 脇名先輩わきなせんぱい魔力まりょくポーションを1口飲むとたずねる。


「あのレベル5の水球の後、

 ワタクシ側のアースがかなりグチョグチョにれましたでしょう?

 あれをもっと利用すればいいんですの」


 りんが、れた自分側のアースをり返って指差した。


「あー……。

 それねー。分かってはいるんだけどねー」


 脇名先輩わきなせんぱいは、コクコクうなずきながらしぶい表情をする。




 アースは水はけが良いとは言え、れれば少しばかりすべりやすくなるのだ。




「動きにくくなるのはもちろんですが、ワタクシだって女ですもの。

 どろだらけになるのはいやですからね。ホホホ……」


 りんが笑いながら、アースの審判しんぱんと交代する。


「そうだね。フフフ……」


 脇名先輩わきなせんぱいも笑いながら、アースから出て行く。




 次は、ボクと絶による剣士けんしシングルスだ。


 2人でアースに入ると、中央の『*』マークの辺りで握手あくしゅを交わす。


「いい試合をしよう」


 絶が言うと、


「ハハハ……。お手やわらかに……」


 ボクも言う。


「ムロさん。お兄様。

 2人共、頑張がんばってくださいませ」


 審判しんぱんりんも言った。

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