8回戦 絶と倫-4

 翌日。


「おはようムロくん!」


 絶は朝から元気だ。


「おはようございますムロさん」


 りんは昨日より少しテンションが低めかもしれない。


「(寝不足ねぶそくとか低血圧とかだろうか……?)」

と思いつつ、


「おはよう。じゃあ行こうか」


 何とか起きられたボクも、家までむかえに来てくれた絶、りんにあいさつして、

3人で並んで登校しだす。




「こっちの森のほうからけると近道なんだ。

 たまーにモンスターが出るんだけどね……」

とボクは絶、りんを案内しながら歩いて行く。


「へー、そうだったんだ。

 確かに、あっちのほうに校舎がチラッと見えてるね」


 絶が言う。




「昨日、あの後にワタクシ少し考えたんですの……」


 森をけたころ、ふいにりんが口を開いた。


「お……?何を考えたの?」


 ボクがたずねる。


「ワタクシ、次の整理ソートが来たら、

 風属性を取り入れますわ」


 りんが言った。




 『整理ソート』というのは、

思春期に魔法まほうが使えるようになる初恵しょけいむかえた女性に、

その後毎月のようにやってくるある現象のことである。


 女性の覚えていた魔法まほうがリセットされたり、

魔法まほうを覚えておくための魔力まりょくの器量が変化したりする、

大事な働きだ。


 毎月のようにと説明したが、

実際のところは月の満ち欠けの周期のほうが近しいらしい。


 それになぞらえて、『月恵げっけい』とも呼ばれている。


『昔の人は、魔法まほうを神様からのおめぐみだと考えていたのだろう』

と義務教育では習った。


 整理ソートについて簡単に説明すると、

例えばここに5ブロック分の魔力まりょくの器量を持つ女性がいたとする。


(あくまで例である。

 実際の女性の器量はもっと多いことがほとんどだ。)


 その女性は、

レベル1の魔法まほうを5個覚えておくことか、

レベル5の魔法まほうを1個だけ覚えておくことが可能なのである。


 あるいは、

レベル2を1個とレベル3を1個という組み合わせで覚えておくことも可能だ。


 そして、一度魔法まほうを使用して覚えた状態になった魔力まりょくの器量というものは、

時間が経って消耗しょうもうした魔力まりょくが回復した後も、

同じ魔法まほうにしか使用できなくなるように固定化される。


 先ほどの例の女性であれば、

レベル5の魔法まほうを覚えてしまうと、

それで全ての器量がまってしまうため、

レベル1やレベル2の魔法まほうを使用することが不可能になるわけだ。


 これが、女性の魔力まりょくの器量の概念がいねんである。


 そして、女性が整理ソートを迎えると、

覚えていた魔法まほうは全てリセットされるのだ。


 先ほどの例の女性であれば、

レベル5の魔法まほうを1個だけ覚えていた状態から、

レベル1の魔法まほうを5個覚えた状態に、

切りえるということが可能なわけである。


 同じ魔法まほうを複数個覚えたい場合は、

魔法まほうを使用して消耗しょうもうした魔力まりょくが時間経過で回復する前に、

り返し同じ魔法まほうを使用する感じである。


 そして、整理ソートが来るたびに、

女性の魔力まりょくの器量というものは、わずかずつだが変化していく。


 例えば、前回まで魔力まりょくの器量が5ブロック分ぐらいだった女性が、

成長する年齢ねんれい整理ソートむかえると6ブロック分ぐらいに増えたり、

逆に老化する年齢ねんれい整理ソートむかえると4ブロック分ぐらいに減ったり

と変化するわけである。


 こういった変化が起こるためか、整理ソートを迎えた女性は、

魔力まりょくの発生源とされている下腹部を中心に不調をきたすことが多い。


 腹痛や腰痛ようつう、人によっては頭痛やかたこりなんかまで起こすそうだし、

イライラしたりおこりっぽくなったり、なみだもろくなったりもする。


 そのストレスで、さらに体調をくずすという悪循環あくじゅんかんになる場合も少なくない。


 さらに、特に剣魔けんま競技にいそしんでいる若い女性ともなると、


『次に覚える魔法まほうどうしよう……』

なやみになやむことになる。


 なので、女性が整理ソートの時期をむかえたら、

そっと察して支えてあげるべきだ。


 時に女性のストレスのはけ口として理不尽りふじん攻撃こうげきを受ける場合もあるが、

それもふくめてである。


 リセットされている間にモンスターにおそわれでもしたら、

覚えたい魔法まほうちが魔法まほうが固定化されてしまうような事態になりかねない。




 ちなみに魔法まほうの覚え方は、

魔法まほうを自由に使用してもよい『美殿びでん』と呼ばれる

バッティングセンターのような広い施設しせつが、

町の色んなところに設置されているので、

そこで覚えたい魔法まほうを実際に使用する感じである。


 あるいは剣魔けんま競技の選手であれば、練習中などでも構わない。


 ただし、覚えられる魔法まほうの種類というものにも個性や資質の影響えいきょうがある。


 人によって、各属性への向き不向きというものがあるのだ。


 例えば、


『火属性と風属性は使用できるけど水属性と土属性はレベル1すら使用できない』

とか、


『火属性はレベル5まで使用できるけど風属性はレベル3までしか使用できない』

とか、そんな感じである。


 その他にも、

整理ソートの周期だったり、

器量のブロック数だったり、

消耗しょうもうした魔力まりょくの回復速度だったり、

魔力まりょくの放出速度だったり、

魔法まほうの連発可能な間隔かんかくだったり、

魔法まほうの精度だったりと、

個性が影響えいきょうする要素は多い。


 例えば、挿入インサートですぐ聖剣せいけんを中断してしまうりんの場合であれば、

魔力まりょくの放出速度が極端きょくたんに速いのだろうと言えるわけだ。




「えっ?エインと同じ火属性じゃなくていいの?」


 ボクはりんのほうをり返ってたずねる。


「火属性も残したまま、風属性も入れたいんですの。

 ワタクシ、一応は風属性も覚えられますから」


 りんは、うなずきながら答えた。


「一体どうして?」


 絶も不思議そうに尋ねる。


 ボクも疑問だった。


「(りんと言えば、

  火属性の火球や爆発ばくはつ

  パンパンボンボンと連射していたイメージが強い……)」


 ボクは、以前にユーバイブやエックセで

チラリと観たりんの試合風景の動画の内容を思い出す。


「ミックスダブルスをやるのであれば、

 ペアにふさわしい魔法まほうを覚えないといけませんから」


 りんが言いながらボクを見つめてきた。


「……えっ!?ボク!?」


 ボクはおどろいて立ち止まってしまう。


「他にだれがおりますの?」


 りんも立ち止まり、不思議そうな顔をしている。


「いやいや!

 剣魔けんま部には大勢部員がいるし!

 ボクなんかあんな聖剣せいけんだし!」


 ボクは言いながら首と両手をった。


「他の部員の方の聖剣せいけんでしたら、昨日全員折ってしまいましたが……?」


 りんは首をかしげる。


「全員折った!?」


 ボクは思わず、すごい大声を出してしまった。


「あら?お伝えしていませんでしたかしら?」


 りんすずしい顔をしてかみをかきあげる。


「(たてる聖剣せいけんばかりか、

  男子の部員全員が被害ひがいにあっていたのか……!)」


 ボクは愕然がくぜんとしつつ、ある疑問をおそおそる口に出した。


「……ん、あれ?

 でも男子って三年生もまだいるから20人近くいるはずだよね……?

 りんって魔法まほう何発ぐらいてるの……?」




 聖剣せいけん挿入インサートは、魔法まほうをそのまま使用するのと同じで、

込めた量に応じて魔力まりょく消耗しょうもうする。


 中学生の聖剣せいけんとはいえ中断させたということは、

最低でもレベル2の魔法まほうを使用するぐらい、

つまり1人あたり2ブロックは魔力まりょく消耗しょうもうするはずだ。




「器量のことでしたら、60とちょっとですわよ?」


 りんがさらりと言う。


「ろ……!?」


 ボクは開いた口がふさがらなくなった。


「(中学生女子の器量の平均って確か30ぐらいだよな!?

  軽くその倍!?

  プロの魔法まほう使いのトップでも70とかだから、

  ほとんどプロ並みじゃないか!

  まだ中学1年生なのに!?

  器量が良いにもほどがある!」


「えっ……?

 ちょっと待ってよ……?」


 ボクはあることに思い至る。


「今日の朝練って、もしかして……」

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