7回戦 絶と倫-3

 夕食を食べ終わって自分の部屋にもどったボクは、

ベッドに寝転ねころんでスマホをいじり始める。


 インランのグループ招待が来ていた。


 絶、りんとのグループだ。


 スマホを買いあたえられたのは聖通せいつう後なので、

家族以外のグループなんて初めてである。


 早速そのグループに参加してみた。


「あっ……、でも最初ってなんて発言すればいいんだろう……?

 うーんと……?

 『招待ありがとうよろしく』

 とかで大丈夫だいじょうぶかな……?

 いや……、もっと絵文字とかスタンプとか入れたほうがいいんだろうか……?

 いや……、でも……」


 慣れないボクはブツブツと独り言を言いながら、かなりなやむ。




 『招待ありがとう!よろしく!』




 とりあえずボクは発言した。


 慣れないボクなりの精一杯せいいっぱいの、

『仲良くしたい』という気持ちと、

『変なやつだと思われたくない』という気持ちのせめぎ合いの末、

何とかひねり出されたのが、

この『!』マークを付けるという選択肢せんたくしである。


 笑ってくれて構わない。




「あっ、そうだ。

 月刊プレイ剣魔けんまデラックス……」


 ボクは買ってきた月刊プレイ剣魔けんまデラックスをカバンから取り出して、

パラパラとめくった。


「うーん……、国内選手にも頑張がんばって欲しいけど……、

 やっぱり外国選手がカッコイイし強いんだよなー……」


 ボクは、4月に外国で開催かいさいされた剣魔けんまの世界大会の結果のページと、

大会で活躍かつやくしたプロ剣士けんしのスイングフォームの連続写真が掲載けいさいされたページを、

順にながめる。


 プロ剣士けんしのスイングフォームを見たり、その解説を読んだりしていると、

自分もマネをすれば同じようなすごい技がり出せそうに思えてくるのだ。


「あっ!そうか!

 これが共通の話題じゃないか!」


 ボクは再びスマホを手に取る。




『こちらこそよろしくー!』


『よろしくおねがいしますわ』




 返信が来ていた。


「おお……。えヘヘ……。

 えーと……、

 『好きな選手とかあこがれの選手とかっていたりする?』

 と……」


 ボクは普通ふつうに返信が来たことがうれしくて、

ニコニコしながらメッセージを入力する。




 『好きな選手とかあこがれの選手とかっていたりする?』


『だんぜん四股利しこり選手ですわ』


『フォームがキレイでしてよ』


『ボクはコンチとかジョボビッチとかかなー』


『コンチ選手は安定してますが

 ジョボビッチ選手はつかれてくると

 手だけでこするようにるフォームになりがちですわね

 決勝でコンチ選手と当たると負けることが多いですわよ』


『さすがーくわしいなー』




「ふむふむ……。

 りんは、魔法まほう使いよりも剣士けんしのほうが好きなんだな。

 絶は、外国の剣士けんしの中でもトップランカーの選手が好きなんだ」


 ボクは独り言を言いながらうなずいた。


「あと、りんは入力がやたら速いな……。

 パソコンでログインしてるのかな?」


 そう続けながら、ボクは次のメッセージを入力する。




 『ボクもコンチ好きだよ一緒いっしょだね』


 『やっぱり好きな選手のフォームとかってマネしたりする?』




「あっ……。

 『マネなんかしないよ』

 って言われたらどうしよう……」


 発言しておきながら、ボクは後悔こうかいした。


 だがもう既読きどくが付いている。


 後悔こうかい先に立たずというやつだ。




『するするー』


『もちろんしますわよ』


りんなんかコンチのり首りのマネして

 なぜか足首を痛めたことがあるしー(笑)』


『あれは危なかったですわ』


『大会直前でしたし』


『ムロさんもマネする時は気をつけてくださいませ』


りんはしゃべりかたも撲滅ぼくめつブレードのキャラのマネだからねー』


『神アニメですわ』


『エモくて泣けるんですのよ』




撲滅ぼくめつブレード好きなのか……!」


 ボクは、また共通の話題が出来てうれしくなる。




 『院能エインだよね?

  ボクも撲滅ぼくめつブレード毎週ネットリで観てるよ!』


 『女魔法剣士まほうけんしって現実じゃ見たことないけどカッコイイよね!』


『金太のライバルなのに

 撲滅ぼくめつ隊とエーズが戦う時は加勢して合体ジョイントしてくれるのが

 熱い展開なんですの!』


 『わかる!』


『いんのうえいん

 ほんのうりん

 ほら!何だか名前も似てますでしょう?

 だから推しなんですの!』


 『なるほど!確かに似てるね!』




「(女の子とアニメの話ができるのうれしいな……)」


 ボクが思っていると、

コンコンと部屋のドアがノックされた。


夢路ゆめみちー?

 たてるが入らないみたいだから、もうお風呂ふろに入っちゃってくれるー?」


 母さんの声だ。


「はーい……」


 ボクは返事をしてから、


「あっ!そうだ!」

とベッドから飛び起きる。


 ガチャリ!と勢いよく部屋のドアを開けると、


「ごめん、母さん!」

と歩いて行こうとしていた母さんの背中に声をかけ、


「ボク……、その……、

 明日から部活の朝練に行くから!

 それで……、

 お弁当早めに作って欲しいんだけど!」

さけぶように言った。


「あら?そうなの?

 じゃあー……、

 今から作って冷凍れいとうしておくから、

 それを朝からレンチンでもいいかしら?」


 母さんがり返って言ったので、


「うん、それでいいよ!

 あっ……!

 なんなら冷凍れいとうまでしといてくれたら、

 朝からレンチンするのは自分でやって持って行くから……!」

とボクは答える。


「そう?

 じゃあ、そうしておくわね。

 ウフフフ……。

 あ……、お風呂ふろのほう早く入っちゃってね?」


 なぜか母さんは少しうれしそうに言って、

そのまま台所のほうへと歩いて行った。


「(?)」


 ボクは首をかしげながら、

風呂ふろ上りに着る下着類を取りに部屋の中へともどりつつ、

再びスマホを少しいじる。




 『お風呂ふろに入るからまたね』


『ボクらもトレーニングするから反応しなくなるかもー』




「あっ。

 忘れないうちにアラームもセットしておかないとだ……」


 ボクはスマホのアラームを設定する画面で、

いつも平日に起きる時間のアラームをずらして、

5時半から5分刻みで5個ぐらいセットする。


 こうしないと起きられないタイプなのだ。


 スヌーズだけだと、自分でも知らない間に切ってしまって

またてしまうので、ダメなのである。




「さて、お風呂ふろ風呂ふろ……」


 ボクは下着類を手に部屋を出た。

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