5回戦 絶と倫-1

 ボク達が本屋の横の路地裏からもどると、人だかりはすっかり消えていた。


 りん聖剣せいけんを中断させられた男性も、いなくなっていた。




「あっ。お家どこなの?

 この辺まだ分かんないよね?

 近くまで着いて行こうか?」


 ボクはりんり返ってたずねる。


 辺りがだんだんと暗くなりはじめていたからだ。


 自治体にやとわれた

プロの剣士けんし魔法まほう使いがパトロールしているとはいえ、

日が暮れるとモンスターの活動が活発になって危険なのである。


 ただ、ボクはそうは言ったものの、


「(やっぱり『気持ち悪い』とか『こわい』とか思われちゃうかな……?

  聖剣せいけんめられたとはいえ、

  まだ初対面だし……)」

と思い直して、


迷惑めいわくじゃなければだけど……」

と付け加える。


 だがりんは、


「まあ。

 着いてきていただけるんですの?

 紳士しんしなところもポイント高いですわね……」

と少し顔をせながら言い、


「そういえば、まだお名前をおうかがいしておりませんわ。

 ぜひ教えてくださいませ」

と続けながら、そばまで歩み寄って来て、

ボクの左手を取り、両手でギュッとにぎった。


「(えっ……!?)」


 ボクはおどろいた。


「(こんな美少女に手をにぎられてしまった!

  うれしいけど、なんかすごくずかしい!)」




 と、その時、


「あっ!こんなところにいた!」

と声がした。


 ボクとりんり返る。




 絶だった。




「あら?お兄様じゃございませんか。

 部活はもう終わったんですのね」


 りんが言った。


「うん。

 でも、早く終わったのはりんのせいだよ?」

と絶が言いながら近寄って来て、ボクのほうへ視線を移す。


「あっ!キミ!」


 絶はボクの顔を近くで見て、ようやくボクと気がついたらしい。


「(モブとしてむタイプの顔なので、まあ仕方がない……)」


 ボクは思った。


「あら?もうお知り合いなんですの?

 ワタクシから紹介しょうかいしようと思っていましたのに……」


 りんが言う。


 ボクはそれを聞いて、頭の中に『?』マークをかべる。


「(紹介しょうかい

  わざわざボクなんかを?

  なんで?)」


「ボクもりん紹介しょうかいしようかと思ってたんだ。

 かれ、すごいんだよ」


 絶までそんなことを言う。


「ボク、なんかしたっけ?」


 心当たりが英語の時間に右手につかみかかったことぐらいしかないので、

念のためにボクは絶にたずねた。


「だって、あの昼間のベンチプレス。

 あれ、先に上げてたのってキミだろう?

 あせが付いてたし……」


 絶が言った。


「あー……、あれかー……」


 ボクは思い至った。


「(昼休みにトレーニング室のベンチプレスで、

  先に90キロのバーベルを上げていたのは、確かにボクだ……。

  あの時の絶が何か言いたげだったのは、そのことだったのか……)」

とボクは納得した。


「それに、気配を察知する能力もすごいし……」


 絶が続ける。


「そういえば、帰りの会が終わった時に変なことしてたね……」


 ボクは言った。


「(あの時に、ボクの後方に立ってたのは、

  ボクのことを試していた的なやつだったのか……)」


「しかも、足まで速いんだ。

 あの時、実は部室前からキミを追いかけたんだけど、

 校門を出たころにはもう見えなくなってて……」


 絶がさらに続けた。


「(それは悪いことをした……)」


 ボクは思って、


「あの時はげるのに無我夢中で……」

と言いながら頭をかいた。


かれ聖剣せいけんもすごいんですのよ」


 今度はりんが口を開いた。


「ワタクシ、たぎってしまいましたわ」


 りんは、またウットリしたような目をして言う。


「たぎる?

 本気で挿入インサートでもしたってこと?」


 絶がたずね、


「ボクは、かれ聖剣せいけんは…、その…、

 あんまりめぐまれてないタイプだって聞いたんだけど……」

慎重しんちょうに言葉を選ぶように続けながら、ボクのほうを見た。


「そうだ……」


「そんなことございませんわ!」


 ボクが肯定こうていしかけた言葉に、りんかぶせるように否定した。


「確かに丸くっては無いですが、

 すっごくかわいいんですのよ!」


 りんが言い、


「それにワタクシの魔力まりょく挿入インサートしても、全然折れませんでしたの!

 オーラルコミュニケーションまではしてませんが、

 今からするのが楽しみですわ!」

と続ける。


「……『かわいい』は、

 聖剣せいけんめる言葉としては、あんまりよろしくないかなぁ……」


 絶は半分あきれたような声で言いながら頭をかいた。




 ちなみに、ご存知の方もいるとは思うが、

ここで言っている『オーラルコミュニケーション』とは、

英会話することではない。


 女性の体液。


 つまり、だ液なんかを聖剣せいけんると、

挿入インサートする時に短時間でスムーズに入りやすくなるのである。


 このため、剣魔けんまのミックスダブルスの試合なんかでは、

開始前に女性がペアの男性の聖剣せいけんをベロベロとめ回すことがある。


 それをオーラルコミュニケーションと呼ぶのだ。


 体液なら何でもいいので、

なみだや鼻水なんかでも、

魔力まりょく挿入インサート効率を上げるという点では大丈夫だいじょうぶらしいのだが、

それらを大量に出すというのは大変なので、

だ液で、

つまり口でするわけである。


 だ液の量が少ない人のためには、

専用の潤滑剤じゅんかつざい潤滑じゅんかつ液と呼ばれる液体も売られている。


 本人の体液には多少おとるらしいが、

それらをることでも挿入インサートがスムーズに入りやすくなるそうだ。




 嫌われているボクの場合、

イヤイヤでペアにさせられた女の子が

オーラルコミュニケーションなんてしてくれるはずもなく、

たとえ授業や剣魔けんまの試合でやらなければならない状況じょうきょうになったなら、

『ペッ!』とツバをきかけられる感じで終了しゅうりょうである。


『世の中には、

 女性にぞんざいなあつかいをされることをうれしがる男性もいる』

というのは知っているが、

ボクはまだその域には達していない。




「ごめんね?

 りんのやつ、しゃべり方も変だろう?

 別にウチ、お金持ちってわけじゃないから……。

 両親はトレーナーとしては有名かもしれないけど、

 大会に出て賞金とかかせいでるわけじゃないし……」


 絶がボクを見ながら言い、


「でも、りん魔力まりょく普通ふつう挿入インサートして中断しなかったんならすごいね。

 ボクでも加減してもらわないと簡単に折られちゃうのに」

と続けた。


「えっ!?そうなの!?」


 ボクはおどろく。


「だからボク、倫とダブルスやることほとんど無いんだ」


 絶がうなずきながら言った。


「そうなんだ……」


 ボクはつぶやくように言う。


「(兄妹だから、てっきり当たり前のように

  しょっちゅう挿入インサート合体ジョイントをしているものかと……)」


 ボクは自分の認識をじた。


「(そう言われてみれば、

  自分の母親なんかと挿入インサート合体ジョイントをする男子というのも

  ほとんど聞いたことがない……。

  家族だからそういうことをするのが当たり前だとは、

  確かにあまり考えられないか……)」

とも思った。


「やっぱりムロくんは、剣魔けんまの部活やるべきだと、ボクは思うよ?

 ぜひ一緒いっしょにやろうよ」


 絶がボクにせまるように近づき、そう言う。


「えっ!?」


 ボクは再びおどろいた。


「(なんでそうなるの!?

  身体能力が高そうだからってこと!?)」


「ムロさんとおっしゃるのね?

 ワタクシからもお願いしますわ」


 今度はりんが口を開いた。


「ワタクシ、ムロさんが部活に行ってくださるのなら、

 絶対に参加いたしますわよ。

 ぜひ一緒いっしょにやりましょう」


 りんまでボクにせまるように近づき、そう言う。


「えっ!?」


 ボクはさらにおどろいた。


「(中断しなかったぐらいで!?

  あんな丸い聖剣せいけんなのに!?)」


「いや……、あの……、ボク……」


 ボクは二人のことをおさえるように両手を出すが、


「さあ、ムロくん!」


 絶がさらにせまり、


「さあ、ムロさん!」


 りんもさらにせまる。


 絶、りんがボクの顔にキスしようとする勢いである。


「いや、あの!

 ちょっと待って!

 1つだけ!」


 ボクはさけぶように言いながら、右手の人差し指を立て、

高々と上にかかげた。


 絶、りんはそれにおどろいたのか、少し下がる。


 ボクは、フゥー……とため息のように息をつき、


「ボク、木石きいし夢路ゆめみちって言うんだ……。

 まだ名乗ってなかったよね……?

 あだ名が『ムロ』だから……」

と何とか二人に伝えた。




○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~


※ここまで読んでいただきありがとうございます!

 物語はまだ序盤じょばん、ここからが本番()ですが、

 少しでも面白いと感じていただけましたら、

 ぜひ★、レビューをお願いいたします!

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