1-16 駆け込みダイアローグ
「はぁ、はぁ……別に手なんて引かれなくても、走れるわよ…………。」
「いや……はぁ……なら俺を、引き留めなくても……1人で、逃げればよかっただろ…………。」
「だって…………」
こんなぶっきらぼうな態度を取る自分が実は1人だと心細かったなんて、あまつさえ怖気付いて体が動かなかったなんて恥ずかしくて言えません。
「あ……あんたが何か……思いついた、ような、顔してたから……頼ってあげたのよ…………。」
リコは恥ずかしさのせいか、あるいは激しい運動のせいか、頬を紅潮させながら答えます。
「そりゃ、どうも……。」
二人は外の体育倉庫に駆け込んで息を潜めながらそれが整うのを待ちました。部活でボールなどを使うため開いていたのはいいのですが、床に砂や砂利が溜まっていて綺麗とは言えません。
「これからどうする気? あんたもあいつに目ぇつけられてるわけだけど。」
「まぁあの人、口と態度は悪いけどそんなに野蛮な感じはしなかったし大丈夫でしょ。」
「私には野蛮なヤカラにしか見えなかったけど。」
「俺の勘。」
いや勘ですかい! まあ商売人の息子として何か感じるところがあったのかも知れません。商売人は人脈、もとい人を見る目が大事ですからね。
「あっそ。じゃあ私、帰るとこだったからそろそろ帰るわね。」
「あ、なら帰る前に1つ頼みがある。」
「本当に“1つ”なんでしょうね……それ?」
「たぶん。あ、ちょっと待って。」
そう言うと太介はポケットから着信音の鳴るスマホを出して耳に当てました。
「(おい林堂、犬捕まえたぞ。)」
その電話越しにそう聞こえてきたのは銀時の声。
「でかした。ドグマは元の場所に返しておいてくれ。あ、あと茶道部の部室を開けて渡瀬姉妹と集まってもらってていいか?」
「(ん? いいけどなんでだよ?)」
「プランBの用意ができた。俺らもしばらくしたら向かう。」
「(……俺“ら”?)」
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