1-14 猫虎ドッグバイト

「よぉ、子猫ちゃん。」

 曲がり角から待ち伏せしていたかのように現れたのは、髪を赤く染め、両耳にいくつもピアスを開けた男子生徒でした。両手をポケットに突っ込みながら両脇にギャルっぽい女子たちを侍らせています。

 この男、見覚えありますね。確か廣井大河とかいう奴です。そして彼の視線の先には、またまた見覚えのあるお顔が。

「……………………。」

 そのお顔の主である金髪の彼女は、道を塞ぐオラついた男をめ付けました。

「おー怖い。だがオレサマ好みの顔だぁ。そろそろオレサマの女になる気にはなったか?」

「…………。」

 彼女は表情を変えず、踵を返して来た道を引き返そうとしました。

「おぉい、ちょい待てよ。」

 大河がそう言うと、取り巻きの女子二人がその行く手を阻みました。挟み撃ちにされてしまいました。彼女が再び大河を睨みます。

「…………トイレ行きたいからどけて。」

「おいおぉい、先輩にそんな口の聞き方はねぇだろぉ?」

「キャンキャン!」

「あ?」

 大河の足元では猛々しい獣……ではなく可愛らしい柴犬が尻尾を振っていました。

「犬……?」

「これ今朝ウサギ小屋のそばにいた奴じゃなーい?」

 取り巻き女子の一人が犬を指差して言いました。犬は大河のほうに寄っていくと、静かにゆっくりと、しかし力を込めて彼の足を噛みました。

ぃで! 離せこのバカ犬!」

 大河は噛まれたほうの脚をブンブンと動かして犬を振りほどきました。その勢いで犬は高く宙を舞いました。

「キャンキャーン!」

「いたぁーーーーー!!!」

 そこに向こうから太介が走ってきたかと思えばそのまま彼女をジャンピングキャッチ。そして丸まって転がりながら着地しました。

「あっぶなー! 借り物に傷がつくとこだった……おや? 久しぶりだな。」

 太介が金髪の彼女の存在に気づきました。

「……何やってるのよあんた?」

「いやー、犬が逃走したから追いかけてたわけだけど……そちらは?」

「別に何も。」

「『何も』と言う割には前より怖い顔してるけど?」

「ああ? なんだテメェ、コイツの知り合いか?」

 犬はさっき飛びましたが、大河は太介にガンを飛ばしました。太介は大河の上履きの色が2年生のものであることを確認し、ドグマをだっこしながら答えます。

「いえ、知り合いではないです。彼女は俺のことを知ってるんですけど、俺は彼女の名前も知らないので。形的には、彼女が俺を一方的に知ってる感じですね。」

「私をストーカーみたいに言うのやめてくれる? あんたが勝手に自己紹介していっただけでしょ。」

 彼女は誤解を招く表現に的確に補足を入れました。

「よく分かんねぇが、知り合いでもねぇ奴ぁすっこんでろ。邪魔すんなボケ。」

「なるほど、確かに俺はお邪魔ですね。ところでそうおっしゃるということは————」

 太介の目が、普段の『何考えてるかわからない』目から『何かを考えついた』目に変わりました。

「当然あなたが彼女の邪魔をしてるなんてことは、ないですよね?」

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