1-13 蹴飛ばしQ.E.D.ガール
「——はい、というわけで連れてきました。」
太介がウサギ小屋のそばで元気に動き回る犬を双子に見せました。
「…………あのぉ、どういう事ですかぉ?」
「イヌだ! カワイイあたしを見て尻尾ブンブン! お前見る目あるなっ! 一緒に写真撮ってやる!」
「キャンキャン!」
突然外に連れ出されたと思ったらいきなり犬を見せられて困惑する望愛と、それがカワイイ自分を引き立たせるためのものだと思っている真理愛。後者は犬と顔を並べてあざとい写真を撮り、早速SNSへ投稿します。
「どうですかな、まりあちゃん? カワイイでしょ?」
「うんかわいい!」
「この子メスだけど?」
「そーなの? ならもっとかわいいっ!」
「なあ林堂、何が言いたいのかさっぱりなんだが……。」
銀時が頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら訊きました。太介は自信満々に答えます。
「金山は俺に猫レベルの訴求力はないと言った。これってつまり小動物の方が人間よりカワイイってことだろ? だからメス犬の方がまりあちゃんよりがカワイイ。」
「待て待て待て。」
「俺は、まりあちゃんよりカワイイ“女の子”を見つけてきたら部室は譲ってもらうと言った。つまりこの勝負、俺たちの勝ちだ。Q.E.D.」
「いやメス犬を女の子にカウントするな!」
「え? 女の子がメス犬?」
「その表現はアウトよ真理愛ぁ!?」
途中から犬に気をとられて話を半端にしか聞いてなかった真理愛の爆弾発言に望愛は焦り散らかします。
「さて、まりあちゃん。そういうわけだから、申し訳ないけど秘密基地は別の場所に作ってもらってもいいか?」
「うん? よく分かんないけどやだ!」
真理愛は犬をなでなでしながら屈託のない笑顔でそう答えました。
「おや?」
太介の目論見は、彼自身の主張の強引さと、気が散ってちゃんと話を聞けない真理愛の集中力の無さによって阻まれました。しかし彼は自身の『Q.E.D.』がなぜ蹴飛ばされたのか分からず首を傾げました。
「おい林堂……だから言っただろ? 最初から譲る気なんて無いんだって。」
「いやまだだ……まだプランBがある。」
「も、もういいですよぉ……これ以上わがままに付き合ってもらうわけにはいきません。真理愛には私からキツく言って聞かせますので————」
「ぐへっ!」
「「「!?」」」
サコサコサコサコサコッ! 真理愛が抱きかかえていたドグマが彼女のお腹を蹴飛ばしながらスタートダッシュを決めると、向こうの方へ軽快に走り去ってしまいました。
思えば太介が言った「Q.E.D.」というワードは伏線だったのかも知れません。
そう、『QEtobasu.Dog(蹴飛ばすドッグ)』。あ、すみません。言ってる場合じゃないですね。
「真理愛何やってんのぉ!?」
「あっちへ逃げたぞ!」
銀時が叫びます。
「俺が追う!」
太介は格好よくそう言い残すと、ドグマが逃げた方向へ走り出しました。彼が最初の角を曲がったところで滑って転んでしまったところは誰も見ていませんでしたが、そこに銀時が追いかけてきて、
「犬は!? って林堂……大丈夫か?」
転んだ後の醜態を見られました。犬は見失いました。
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