1-10 ご都合エクスプレイン

 それはカワイイマウントバトルの火蓋が切って落とされた日の翌日。4時間目の授業の最中でした。

「じゃあこの『るれ』の基本形とここでの活用形、それから意味を……林堂くん。」

「あふぁい、『る』のいぜんけいでひょんけいの意味でふ。」

「正解だけど……なんか口モゴモゴしてない? なにか食べてる?」

 国語の水門みと先生が怪訝そうな顔をしました。

「先生、こいつ早弁してます。」

 銀時が自分の背後で行われている行為をバラします。

「いや違うんでふ……(ゴクン)。これは先生の素晴らしい授業を空腹の状態で受けてしまうのはもったいないと思い仕方なく……」

 ぷっ。一部のノリのいいクラスメイトはこの切り返しを聞いて静かに笑いました。

「口が達者ね……でも弁当はしまって。授業続けまーす。」

 水戸先生は気勢をそがれた様子で板書を再開しました。彼女がさっぱりした性格だったのが幸いですね。太介はそれを分かってて遠慮しなかった可能性もありますが。


 お待ちかねの昼休み。太介と銀時がいつものように男二人で飯を食っていると、4人くらいの女子グループが群がってきました。

「銀時くん、一緒に食べよー!」

「いいぜ。でも他の人の席に座るなら、座っていいかどうかできるだけ確認してからにしろよな。」

「銀時くんまじめ〜!」

「でもそーゆーとこもかっこい〜!」

「私今日お弁当手作りしてきたんだけど一口もらってくれる?」

「林堂くん、りんご味くれ。」

「いいけど、お試し期間終了して今週の月曜から月々500円になってるから。支払いは現金かmaypay《メイペイ》でいいよ。」

「無料期間から無言で有料プランに移行するサブスクやめろっ!」

 今日も銀時のツッコミが冴えます。というかモテモテですごいですね、彼。さすがはイケメン。

 4人中3人が銀時目当ての女子に囲まれる状況ですが、しかしそんな中何食わぬ顔でお弁当の残りを食べながらビジネスを展開する太介のメンタルもある意味すごいです。

 そんな様子を離れた席から見つめながら、静かに憤慨する眼鏡女子が一人。

 (ちょっと邪魔しないでよ! 私が見たいのは『りん×かな』なのよ! クソ陽キャ女どもはお呼びでないわ!)

 ちょっと何を言ってるのか、というか考えてるのか分からないですが、この方は富士屋良乃ふじやよしの。カバンの中に隠し持っているBL本の事はまだ誰にも言っていないという彼女の趣味は……言わずもがなです。

 (ぐへへ……普段はボケに回る林堂くんが金山くんを言葉責めして弱いところにツッコミを入れていく逆転シチュとか最高……いやでも再逆転する展開もそれはそれで……)

 口に出してはいませんが早口で何か言ってます。これ以上は教育に良くないのでそっとしておくことにしましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る