1-9 勃発カワイイバトル

 さて、男性陣も軽く自己紹介を済ませたところで、銀時が尋ねます。

「それで君ら、こんなとこに何しにきたんだ? わざわざ鍵まで開けて。」

「あー、えっとぉ……」

「秘密基地を作るの。」

 望愛の言葉を遮るように、真理愛が決然として答えました。

「秘密基地? なんか楽しそうだな。」

 太介が呑気に茶々を入れますが銀時はスルーします。

「いや秘密基地って……もしかしてここにか?」

「そっ。家だと鬼ババ……お母さんがうるさいから、ここにあたしが思いっきり遊べる秘密基地を作るの。」

「私は止めたんですが聞かなくてぇ……それでそちらはぁ?」

「俺らは部活を作りたいんだ。人助けの部活。」

 太介が答えました。

「へぇ〜、すごいですねぇ。」

 そこに銀時が補足します。

「まだ顧問も決まってなけりゃ部員も5人集まってないから、部になれるかどうかすら不透明だがな。同好会じゃこんないい部屋使えないし、寝転べる場所が欲しい俺たちとしては、できれば部の設立を目指したい。」

「うんうん。そういうことだぁ! わかったかぁ!」

「しらねぇよ! じゃなくて情緒どうなってんだよ!」

「まあそんな感じの経緯いきさつで、未来の部室を見にきたってわけだ。」

「急に落ち着くな。落差落差。」

「そうだったんですかぁ……じゃあ私たちお邪魔ですねぇ。真理愛、そろそろおいとましよぉ?」

 望愛がそう諭しますが、

「…………やだ。」

真理愛は静かに突っぱねました。

「真理愛ぁ?」

「残念だけどこの部屋は渡せないのだっ! あたしよりカワイくない人にあたしが譲るなんてありえないもん!」

「「???」」

「!」

 この子なに言ってんの? と二人は思いましたが、太介だけは真に受けていました。

「……つまり、真理愛ちゃんよりカワイイ子を見つければ勝てるってことか。」

「その勝負ほんとに必要か? 普通に先生呼べばいいんじゃ……。」

「それはダメだ!」

 太介が急に語気を強めました。

「なんでだよ!?」

「部室を不法占拠しようとしたことについて彼女が先生に咎められるだけならともかく! その不法占拠の根拠が『自分が一番カワイイから』なのを先生に知られでもしたら……恥ずかしいだろ! のあさんが!」

「えっ!? あっ、おぉ気遣い感謝しますっ!」

 望愛は自分が急に話題に乗ったことでびっくりして語尾が伸びず跳ねました。

「ん〜、確かにそれもそうか。っていうかお前そういうの気ぃ遣えるんだな……。」

「ちょっと! あたしがカワイイことの何が恥ずかしいって言うの!?」

「とにかくここは彼女に従ってカワイイ子を連れてくるぞ。」

「そうだな……っていやいや————」

 銀時は太介の耳を借り、コソコソと小さな声で続けました。

「(あれ多分、わがままを通すための方便だぞ。たとえトップアイドルを連れてきても自分よりカワイイとは認めないんじゃ……。)」

「(いや大丈夫だ。俺に考えがある。)」

 神妙な顔で答える太介。今度は何を考えているのでしょうか?

「まりあちゃん。一週間……いや3日だ。俺が3日後までに君よりカワイイ女の子を見つけてきたら、部室は譲ってもらう。それでいいか?」

「——別にいいよっ! まっ、あたしよりカワイイ子なんていないけどねっ!」

 かくして、必要かどうかは分からないカワイイマウントバトルが幕を開けた。


「あ、それはそうとその銃ちょっと気になってるんだけど」

 太介は戦を始めたとは思えないほど能天気な様子で真理愛のおもちゃの銃に興味を示しました。

「これ? これね、昔おもちゃ屋で買ったやつなの! 欲しいならあげるー!」

「え、マジすか。あざーす!」

「子どもか!」

「そ、それ結構威力あるので気をつけてくださいねぇ……。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る