1-8 撃ち合いライム

 この国ではまずあり得ない状況ですが、太介と銀時の二人は冷静に両手を挙げました。

「落ち着け。俺らは味方だ。」

「いやこの状況で先生に当てられたくない時みたいな消極的な手の挙げ方すな。」

 銀時がそう言うと、太介は指を伸ばした状態で挙げた両手を胸の高さから頭上へ持ち上げました。

「やめなさいよ真理愛ぁ、失礼でしょお!」

 そう言うと望愛は真理愛の頭にげんこつを入れました。

「あイタぁ! 何すんだ望愛ぁ!」

「いぃからそのおもちゃ片付けてぇ!」

「うるさいっ! 妹が姉に指図するな!」

 真理愛は銃口の向きを望愛のほうへと変えました。

「こぉんなちんちくりんが私の姉とか恥ずかしいからやめてくれるぅ?」

「はぁぁ!? 望愛だってちんちくりんだろうが! 身長ほぼ一緒だし!」

「身長一緒でもここが違うんですぅ! こ・こ・がぁ!」

 見せつけるように望愛は人差し指で自身の胸を指差しました。

 脅威きょういの差を見せつけられた真理愛はぐうの音も出ず顔を赤くし、涙目になってしまいました。

「……くないもん。」

「え? なんですってぇ?」

「そんなおっぱいカワイくないもんっ!」

「ひゃ!」

 怯んで目をつぶり、腕で顔をガードした望愛の頭の上を、真理愛がぶん投げたそこそこリアルなおもちゃの銃が緩やかな弧を描いて飛んでいきました。

 そしてそれは、彼女らの喧嘩に呆気に取られて傍観していた2人の男のうち一人、すなわち太介の額を直撃し、そのままノックアウトさせました。

 その瞬間、真理愛のヒートアップしたおでこに冷たい汗が流れます。

「やべっ……」

「だだだだだ、大丈夫ですかぁ!?」

 血の気の引いた望愛は慌てて太介にかけ寄りました。


 しばらく額を手で押さえたままくたばっていた太介でしたが、突然むくっと起き上がると、

「痛いひたい だったけど痛み 引いたみたい 地雷 みたいに読めない 意外な未来 銃弾じゃなくて銃飛来 させてくお前は like a killer bee, yeah」

元気にイカしたライムをかましました。

「オーケー、もう大丈夫そうだな。」

「あ、これ大丈夫って意味なんですねぇ……。」

「…………。」

 だんだん太介の扱いに慣れてきた銀時は平静を保っていましたが、望愛はしょうもない姉妹ゲンカを見せてしまって気恥ずかしい様子。真理愛もさすがにやりすぎたかもと内省し、ばつが悪い様子で黙り込んでいます。

 三人は低いテーブルを挟んで両側に2つずつ配置された座布団の上に座っていましたが、太介も銀時の隣にあった1つに腰を落とました。

 ほんの数秒の静寂ののち、メガネをゆっくりと外しながら荘重な面持ちで切り出したのは、額を赤くした男でした。

「……して、君たちは?」

「あ、えっとぉ、1年5組の渡瀬望愛わたらせのあです。こっちは双子のぉ……自称姉の真理愛まりあです。クラスは同じです。ほら真理愛ぁ? 言う事あるでしょお?」

 望愛がそう促すと、真理愛はムスッとしながらも謝罪しました。

「……もの投げてぶつけちゃってごめんなさい。」

 すると太介は厳つい目つきで眉間にシワを寄せて凄みました。

「ほう……ホンマに申し訳ない思てるんやったら、誠意っちゅうもんを見してもらおか?」

「せ……せーいってなんだよ……?」

「関西弁ヤクザみたいな詰め方やめい! 大阪の会社の社長息子が言うとシャレに聞こえんわ!」 

「えぇ!? そうなんですかぁ!?」

「あー、いやー、下町のちっちゃい会社だけどな。飴を作ってるんだ。」

 太介はアウトレイジな顔を無かったことにして、メガネをかけ直して照れ笑い混じりに謙遜しました。

「まあ流れ弾ならぬ流れ銃が当たったのも含めて、これも何かの縁だ。お近づきの印に。」

 そう言って太介が真理愛に差し出したのはぶどう味のあめ玉でした。

「うちで作ってるやつ。うまいぞ。」

「……くれるのか?」

 真理愛がうつむいていた顔を上げました。

「食ってみな。飛ぶぞ。」

「ちょっと待てぃ!」

 銀時が某芸人風のイントネーションで瞬時に反応しました。

「んふふっ、なんだか漫才みたぁい。」

 軽快なやりとりに場が和みます。真理愛はまだ少し口を尖らせながらも、

「……もらってやる。さんきゅ。」

一応お礼を言っておきました。このお礼は自分を許してくれた事に対してでもありそうです。

「あ、わたらせさ……のあさんもどうぞ。」

「ありがとうございますぅ〜。」

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