1-6 思わせフェイント

 入学から一週間ちょっと。教室もすっかり賑やかになっていました。

「林堂くんアメちょうだーい!」

「毎度あり!」

「私もひとつもらおう。」

 そんな中太介は、女子に飴を配るポジションに落ち着いていました。コミュ力強めの例の女子グループが率先して飴を集りにいったのが定着しつつあるようです。

 彼女らも最初は芸人をイジるような感覚で集っていたのですが、普通に美味しかったので今後も気が向いたらおかわりしていくつもりみたいです。

 ある意味、固定客ができていてすごいですね。彼の父も大阪で喜んでいることでしょう。 

「それでお前、人助けの部活は作ったのか?」

 そう聞いてきたのは金山銀時かなやまぎんとき。太介の前の席の細身の男です。

 入学式の日に会った例の彼女に友達認定を拒否された以上、彼が高校での太介の最初の友達は彼になるでしょう。派手目の髪色をしていてチャラい印象ですが、話してみると意外と堅実で、面倒見のいい性格だったりします。

「まだだけど、とりあえず部室に使えそうな良さげな部屋は見つけた。」

「へー、ちなみにどこ?」

「廃部になった茶道部の元部室。畳だしゴロゴロできていいかなぁって。」

「いやゴロゴロしながら誰を助けるんだよ。それで助かるのはお前の皮脂汚れを食うダニくらいだろ。」

「いやいや、猫はゴロゴロしてるだけで人々に癒しを与え、時には心の支えにもなってるんだぞ。俺だってワンチャン——」

「ねぇよ! お前にニャンちゃんレベルの訴求力はねぇよ!」

 銀時が鋭くツッコみます。

「てか顧問の方はどうすんだ? その廃部になった茶道部の元顧問にでも頼むのか?」

「ああ。川主かわぬし先生にはもう頼んである。」

「おお、良かったな。」

「ただしその頼みが断られてないとは言ってない。」

「断られたんかい。無駄にフェイントかけてんじゃねぇよ。」

「ちなみに部室についてもその時川主から聞いたんだけど——」

「先生をつけろ先生を。断られた恨みをやんわり滲み出さすな。」

「どうやら、他に新しい部活を作る人がいたり、今年から部に昇格する同好会があったりすると部屋の取り合いになる可能性もあるらしい。」

「へー、じゃあ取り合いになったらどうすんだ?」

「実績のある同好会上がりの部が優先されることもあるけど、基本的には活動日を分けて共有になるらしい。」

「まあそうなるか。」

「でも同好会は人が集まらないから部に昇格するパターンはほとんど無いらしいし、たぶん大丈夫じゃないかな?」

「ならいいけど。もし部ができたら俺も入れてくれよ。家帰るとやんちゃな弟共おとうとどものせいで気が休まらねぇから、学校で安眠できる場所を確保したい。」

「……金山もゴロゴロする気じゃんか。」

「ゴロゴロしちゃいけないとは言ってないぞ?」

 銀時は堅実で面倒見のいい性格と先ほど言いましたが、必ずしも真面目だとは言っていません。

「でも人が集まらないのはお前の作りたい部でも同じな気がするんだよな。既にボランティア部とかあるし。部にするには5人以上部員が必要なんだろ? もう誰か声かけたのか?」

「うん。金山の他に一人集めた。」

「その一人ってまさかお前じゃないよな?」

「俺じゃないとは言ってない。」

「全然集まってねーじゃねぇか!」

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