1-2 相席ドロップ

「君、新入生?」

「…………。」

「あれ? シカトされちゃったか。あ、じゃあ飴ちゃんをあげよう。これでほら、ね?」

「……子ども扱いしないで。」

「まあまあそう言わず。グレープ味とりんご味といちご味、どれがいい?」

「…………いちご。」

 彼女はぶっきらぼうに答えました。

「毎度あり。」

 彼はニヤリと微笑しながら飴を渡すと、彼女の隣に相席しました。

「で、こんなとこで何を? 入学式の最中だってのに。」

「……それはそっちも同じでしょ。」

「そりゃそっか。でも俺は今、腹痛でトイレに籠ってることになってるんだよ。つまりサボりではなく生理現象のせいで仕方なくここにいる。」

 彼は悪びれもせず真顔でそう答えました。

 彼女は心の中で「サボりじゃん」と突っ込みましたが、口には出しませんでした。

「つまり理論上、俺たちは今、実質的に連れションならぬ“連れダイ”してることになる。」

「下品な理論に私を巻き込むのやめてくれる?」

 つっけんどんな態度でいた彼女も、色んな意味で汚い理論を大真面目に展開する彼にはツッコまずにはいられませんでした。

「いやーごめんごめん。水に流してもろて——」

 そして彼はコソッと付け加えました。

「(トイレだけに)」

「シバいてもいいかしら?」

 彼女はちょっとイラッとしたようです。いらない事を言うからですね。

「で、結局なぜここに? やっぱサボり?」

「あんたと一緒にしないで。私は……とある理由で私が動けない間に入学式が始まっちゃって、式の途中から参加しようとしたけど……と、とある理由で中に入れなかっただけよ。」

 平静を装っている彼女ですが、まさか一つ目の“とある理由”が『知らない人が多くて緊張してお腹が痛くなったのでトイレに籠っていたから』だなんて口が裂けても言えません。

 言ったら彼の汚い理論が成立してしまい、本当にトイレ仲間ということになってしまいます。こんな変な奴のお仲間など御免です。

 ついでに二つ目が『みんなが席に座っている中、自分一人だけ立ってる状態で席を探すのが恥ずかしいから』なのも秘密です。こちらは単に小心者だとか気にしいだとか思われるのが恥ずかしいので。

「なんだよー、“とある理由”って。肝心なところぼかすなよ〜。」

「恥ずかしいから言いたくないだけ。それくらい察しなさいよ。」

「こりゃ失礼しました。えーと……お嬢さん?」

「名前分からないのに無理して呼ぼうとしなくていいから。」

「分かった。俺は林堂太介りんどうたすけ。はい、どうぞ!」

「……は? 何が?」

「え、いやいや、今のは、あれじゃん。名乗ったら、名乗り返すって、流れじゃん?」

 拍子抜けしたらしく、言い方がカタコトになっていますね。

 そんな彼に彼女が冷たく言い放ちます。

「なんで私が知らない人に名前教えなきゃいけないのよ。」

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