つまずきキャンディドロップ

SHOZEN

1-1 はぐれ者エスケープ

「えーみなさん、入学おめでとうございます。」

 校長の老けた声がマイク越しに、体育館中に響き渡りました。

「皆さんは、あー、これから授業や部活で様々な経験をされるかと————」

 その冗長な話を聞く素振りもなく、辺りをキョロキョロと見渡す新入生の男が一人。太い黒縁の眼鏡が目線と一緒に動きます。

 (やばい、そろそろ座ってるだけのこの状況にも退屈してきたぞ。あっ、そうだ。あーいたたたた……)

 痺れを切らした彼は、何やら妙案を思いついた様子。その場でお腹を押さえながら前傾姿勢で立ち上がったかと思うと、そのまま体育館の出入り口へと向かっていきました。

 後ろの壁に沿って立っていた先生たちが彼の姿を心配そうな目で見ていましたが、果たして彼は本当にお腹が痛いのでしょうか?

 彼の座っていたパイプ椅子は歯の抜けたあとの歯茎のように取り残されています。

 整然と並んだ歯列を尻目に口の中から脱出した彼は、体育館から離れるように歩いていくと、

「ふー」

 少し開けた場所で一息つきました。

(抜け出せたのはいいけど、正直にトイレに籠るのもなぁ……)

 そんな事を思いながら少し困ったように頭をかく彼の前髪が、ひゅらりと柔らかい風に揺れました。

 なんとなーく、その風の吹く方向に向かってふらふらと歩いていくと————おや? 誰かいますね。コンクリートの壁にもたれるように膝を抱えて座り込んでいます。

(上級生か? いやでも、上履きの色が俺と同じってことは新入生か。てか見た目はめっちゃかわいいな。)

 金髪ハーフツインの華奢な女の子です。

 なんとなく寂しそうだったので、彼は声をかけてあげることにしました。いやなに、別に下心などではありません。彼いわく。

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