第2話
西暦2002年の三月、僕はもうすぐ高校一年生になろうとしていた。私立の中高一貫校に中学から通っていて、高校にはエスカレートで進学できる。中学最後の優雅な春休みとはいかず、学校から多くの課題が出ていた。しかも高校生の範囲の課題ばかり。数年後に迫りくる大学受験に向けて、もう学校側は臨戦体制に入っているのだ。一夜漬けでは終わらすことのできない春休みの課題を一つずつやっつけるために、僕は朝から町の図書館に通っていた。
真面目な学生生活を送る一方で、僕はガラケーを使ってインターネットの世界を徘徊していた。多くの掲示板を訪れては、顔写真すら分からない相手とメッセージを交換した。小さな液晶画面の中で行われるメッセージだけの交流は、海岸に打ち寄せられた手紙入りの瓶を見つけたときのように、僕をワクワクさせた。
メッセージだけの交流の中で、一人の女性と意気投合した。現在大学四年生で、すでに卒業が決まり四月からは地元の企業で働くことが決まっている。人生最後の春休みだが、とても暇をしているということだった。しかも、僕の住む町から電車で一時間弱ほどの場所に住んでいることも分かった。「もしよかったら遊びませんか?」と僕が恐る恐る誘ったら、彼女は快諾してくれた。お互いの居住エリアから中間にある駅で街あわせすることになった。
女性と二人で遊ぶ…当時の僕にとって未経験で壮大なことだった。しかも通っている中高一貫校の中等部は男子校だった。思春期を迎えた中学三年間、同年代の女子ともほとんど話しすらしたことがない。テレビや漫画の中にしか女性は存在しなかった。そんな僕が明日女性と二人で遊ぶ。しかも相手は大学生だ。緊張しない訳がなかった。それ以上に興奮していた。
もう少し僕らのことを詳細に説明しておこう。僕は奈良県天理市に住んでいる。そして大阪と奈良の県境にある私立の中高一貫校に通い、大和郡山市の図書館で学校の課題を行なっている。その合間にガラケーを使って見知らぬ女子大生と会う約束をした。待ち合わせ場所は奈良市にある大和西大寺駅の改札口だ。明日会う女子大生はペンネームをサキと言う。サキは三重県に住んでいるが、電車を使えばすぐに奈良に出られるということだった。その証拠にサキの通う大学は、僕が住んでいる天理市にキャンパスを構える天理大学だったのだ。そのことを実際に会ってから僕は知ることになる。「だから天理のことはよく知っている」とサキは言った。
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