第5話

 父に続いて一歩理科室へ入った桃志朗はめまいを覚えた。


 理科室内にはより濃い靄のようなものが立ち込めている。このまま自分がいたならば、どうにかなりそうだ。


「父さん……僕……」


「大丈夫か? まあ、しかたがないさ。ここは妖気で満ちているからな」


 妖気?


 そうだ。これが妖気だと先ほど言ったではないか。こんなにも気持ち悪いものなのか。今後も自分は妖気というものにたくさん触れていくのかもしれないと考えると桃志朗のなかで混沌とした何かが生まれてくる。


「大丈夫。父さんの子だから大丈夫だ」


 そういいながら父がポンポンと桃志朗の背中を叩くとスーっと気持ち悪さが抜けた。


「父さん?」


「まじないだ。大分楽になっただろう」


 そういって父は微笑む。



「しかしあそこの妖気が一番強いようだな」


 父は桃志朗から教室の奥にある理科準備室とかかれた扉の方へと視線を向けた。たしかにそこはさらに濃い靄が扉の隙間から漏れだしている。桃志朗は思わず父の上着のすそを握った。


「大丈夫。桃志朗はここにいなさい」


 そういうと父は準備室の扉の方へと近づき、ドアノブに触れた。





 その瞬間だった。


 突然、すさまじい風とともにものすごい勢いでドアが開く。暴風は父をドアから押し出して離していく。


「俺の霊気に反応したのか? すぐに正体を現したな」


 父はポケットに隠し持っていた護符を黒い風に向ってかざしながら、呪文を唱えた。



 すると、風が護符の中へと吸い込まれていった。やがて教室内には静けさが戻ってくる。



 父は、再び閉ざされたドアに近づく。ドアノブに触れるも今度はなにも起こることなく、ドアがギーギーと音を立てながら開いていく。


「父さん!!」


 茫然としていた桃志朗は父がドアの向こうに消えたことに気づくとあわてて後を追って準備室に入った。


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