第3話

 時刻はすでに午後8時を過ぎており、あたりはすっかり暗くなってしまった。


「着いたぞ」


 桃志朗を乗せた車は校門前に停車する。


 夜の学校は本当に不気味だ。なにもかも闇に包まれているなかでポツンとコンクリート作りの建物が出現する。それだけで背筋が凍るような気分になる。



「ふ~ん、なるほどね」


 すると運転席に座る父がなにかを確信したかのようにうなずいた。


「父さん?」


 なにがわかったのだろうか?


 桃志朗は首をかしげるばかりだった。


「桃志朗よくみてごらん」


 そういわれて桃志朗は学校の方を注意深くみる。すると校舎を覆い隠すような靄が見えてきた。


「どうやら妖怪のしわざのようだ」


「どうして?」


「この靄には妖気なんだよ」


「妖気?」


「そうさ。もちろんいくら目を凝らしたとしても普通の人間にはみえない。けど、我々のようの存在にはみることができるものなのさ」


 我々のような存在?


 その言葉に桃志朗は心に引っ掛かるものがあった。我々とはだれのことなのか。そんなもの簡単な問題だ。


 この場にいる自分と父のことだろう。


 父は陰陽師。ならば、桃志朗にもその血が流れていることになる。妖怪や幽霊がみえてもおかしくはない。


 けど、桃志朗はいままでそんな類いのものは見た記憶はなかった。今回はじめて“妖気”をみた気がする。


「それよりもいくぞ」


 桃志朗は父にならって車を降りる。


 学校の校門はきっちりと締め切られている。その向こうの校舎もグラウンドにもライトの光りはなく暗闇そのもので、いっそう外部からの侵入を拒否しているように感じられる。


「怖いか?」


「うーん。少し怖い。でも、父さんがいるからへっちゃらさ」


「そこまで頼られていると思うと父さんは嬉しいよ。さて」



 父はひょいと桃志朗を抱えあげると軽い身のこなしで校門の柵を飛び越えた。


「父さん。勝手に入っていいの?」


 桃志朗は父に抱きついたまま尋ねる。


「いいもなにも、入らなきゃわからないだろう? 大丈夫見つからなければいいさ」


 父は桃志朗を地面に下ろす。


 桃志朗はそういうものなのかと父を見上げた。


「ようするに問題が解決すれば、夜中の学校への侵入は大したことない。終わりよければすべてよしだ。さあいこう」


 桃志朗は父の言い分に首をかしげるところはあるもののそれ以上なにもいわずに追いかけた。



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