第2話

 学校から帰った桃志朗は、学校の様子と先生から聞いた話を父親に相談することにした。


 父は、小説家をしている一方で“祓い屋”を生業としており、あの有名な安部清明の流れを汲む陰陽師の一族の分家に生まれた。


 陰陽師が活躍したのは、いまから千年も昔の平安時代のことである。


 陰陽師は日本の歴史において長いこと重要な役割を担っていたのだが、明治以降衰退をたどることになる。現在において陰陽師の存在自体ないものとされているのだが、実際はいまでも“祓い屋”としてあらゆる場所で活躍している。


 妖怪やら悪霊や呪いといった霊的な力を信じるものはさほど多くはない。だがいまにいたっても人の怨念といったものは存在し続けている。


 特に、首都東京や大阪といった大都市にいたっては、その怨念がらみの事件が人知れず巻き起こっている。それを解決したりするのが陰陽師はらいやの役割である。


 その陰陽師の中で最もすぐれているのが、安部清明の流れを汲む土御門家である。


 土御門家の本拠地は京都であるのだが、その中で最も優れた力をもつものは、東京で政治家たちを顧客に人知れず活躍を続けているとのことだが、ずっと日本中を放浪している桃志朗たちにはまったく関係ない話。


 それよりも桃志朗が父親に話をすることが優先すべきことだ。


 桃志朗は学校の状況を説明したあと、先生からの話をした。



 *******





 ことの起こりは、いまから一ヶ月ほど前の話だったという。



 それまでは、この学校の子供たちも休み時間には、元気のグラウンドに出て走り回ったり、教室の中で昨日みたテレビの話や恋話をしたりとか各々が思い思いの時間を過ごしていた。休み時間は子供の明るい声で学校の雰囲気を明るくしていた、



 そんなある日、一人の少年が理科室で気を失っている状態で発見された。


 軽い脳震盪だったために少年はすぐ目を覚ましたのだが、どうもすっきりしない乏しい表情をしていたためすぐに帰宅させることにした。


 その翌日登校してきたのはいいが、少年の表情は乏しいままだったのだ。


 元々少年は引っ込み思案ではあったのだが、よく笑う子供だった。それなのに少年はまったくというほど笑わなくなり、声をかけても返事もしない。常にブツブツと独り言をいうようになったものだから、みんなが気味悪がった。


 しかし、それからまもなく、少年のいるクラスから伝染するかのように子供たちから笑顔が消えていった。


「だから、みんなの親たちも困っているって……」


 桃志朗が話終えると父はしばらく黙り混んでしまった。


 桃志朗が言葉を待っていると、父は突然立ち上がった。


「よし、それじゃあ、学校へ行ってみるか。」


「えっ? いまから?」


 桃志朗は目をぱちくりさせる。


「そうだ。動くのは早い方がいい」


 そういうと玄関の方へと向かおうとする。


「父さん! ちょっとまってよ!」


 そのころにはすでに玄関の扉が閉ざされ、父の姿は桃志朗の視界から消えた。


 桃志朗はあわてて靴をはくと玄関を飛び出す。


 すると、父が車の前にたってこちらを見ていた。


「遅いぞ。早くこい」


「父さんが早いんだよ。もう少しゆっくりいってよ」


 桃志朗がむっとすると、父は「ごめん。今度から気を付けるよ」と息子の頭をなでた。


「ほんとうだよ。僕を置いていっちゃだめだよ」


「わかってる。早く乗りなさい」


 桃志朗は助手席に乗った。









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