夢奪われし学舎~流離い祓い屋~
野林緑里
第1話
これは何度目の転校なのだろうか。
桃志朗はもう数えるのもあきてしまうほどに転々とした生活をしてきた。
はじまりなんかは覚えていない。物心ついたときには母がおらず、父との流浪の旅を続けていたのだ。
おかげで一年間で何度も転校させられるはめになる。もう慣れているために普段は気にしないのだが、ふいに何度目の転校だろうと思うことがある。
仲良くなってもすぐに別れないといけないからと冬志朗はそれなりの付き合いをするのだが、それ以上の関係にならないようにしてきたのだ。
今回もそのつもりで転校してきたのだが、どうやら親しくなる必要はまったくないらしい。
なぜなら、そこはあまりにも静寂でなにものも近づけさせないような雰囲気をもつ学校だったからだ。
無関心
無反応
表情も暗く
乏しい
はたして、転校生にまったく興味を示さない小学生が存在するのだろうか。だれかしろ反応してもいいはずなのに、転校してきた桃志朗をみようともしないことに居心地の悪さを感じた。
そこは普通の小学校だ。
子供の集まる場所なのにどうしてみんなが下を向いているのだろうか。
いつもなら笑顔を浮かべながら自己紹介をする桃志朗だったのだがとてもそんな気分にならず、自然と淡々とした口調になった。
「みなさん。えっと……」
担任の鷲崎先生が困惑しながら子供たちに話しかけているがやはり無反応だ。
どうやら先生は普通らしい。
慣れていない様子を見れば、つい最近になってみんなの表情が暗くなったのではないかと想像できる。
鷲崎先生に促されるままに空いている席につく。
それから1日教室で過ごしてきたのだが、クラスメート全員がまったくというほど自分の座っている椅子から立ち上がろうとはしなかった。
だれもがうつむいてブツブツと何かを呟いている。
何をいっているのだろうかと桃志朗はとなりの子供に聞き耳をたててみるも、あまりにも小さな声だったゆえに聞き取ることができなかった。
「なぁ、なんて言っているんだい?」
その子に話しかけるも相変わらずうつろな眼を桃志朗に向けるが、すぐに下をむいてまたブツブツと言い始めた。
「なんだよ。これは?」
いくら温厚な桃志朗でも苛立ちを隠せなくなっていく。叫びたい気分なのだが、はたしてそれをしたからといって彼らは自分を見てくれるのだろうか。そんなことを思うとムンムンしながらも黙り混んでしまう。
(わけがわからないよ。あっそういえば……)
桃志朗は鷲崎先生が授業が気味授業が終わると、まるで逃げるように急いで出て行ったことを思い出した。
先生たちならなにか教えてくれるのかもしれない。
そう思いたった桃志朗は職員室へ向かうことにした。
******
教室からでると人の気配が皆無だった。
声さえも聞こえず静寂だけが漂っている。日差しが廊下に差し込み明るいのだが、その向こうへと視線をむけると暗闇が広がっている。
不気味だ。
重石でものせられているような気分になる。
桃志朗は急ぎ足で職員室のほうへと向かう。
途中窓などがが少し開いている教室があり、中の様子を見ることができた。
桃志朗のクラスと変わらない。
子供たちは、ブツブツと独り言を呟きながら座っているだけだ。
「絶対にへんだよ」
とにかく、先生に聞いたらなにかわかるかもしれない。
「もしかしたら、父さんの言っていたものたちの仕業かもしれない」
そう思うとなおさら、どうにかしないといけないと思った。とにかく、鷲崎先生にでも話を聞けたならばいいだろうと、桃志朗は乱暴に職員室の扉を開けた。
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