第15話 塩と涙
噴火口にいる白竜を確認すると、私とリリは躊躇うことなく噴火口に飛び降りた。
私達が着地するのと同時に目を覚ました白竜は体を起こし、するどい眼光を向けてくる。
「何をしに来た、人間」
「いきなりすみません。塩を貰いに来ました」
「塩だと?ドラゴンの宝と知ってのことか?」
「そう、塩とトンカツ。絶対に合う」
白竜はあからさまに不愉快そうに唸り声を上げると、私達に向かって咆哮を放ってくる。
白竜の体は数十メートルあり、大口から放たれた咆哮は普通の人間であれば吹き飛び、命を失う威力だ。
だが、私とリリは澄ました顔で咆哮を正面から受け止めた。
「ほう。我の咆哮を受けて無事とはな。ならば、ブレスを放つまでよ」
「あの、もしよかったら塩でこれを食べてもらえませんか?」
「断る。なぜ我が・・・」
白竜は話を続けているが、最後まで聞くことなく『亜空間収納』から準備してきた『トンカツ』を大量に取り出す。
今回、ここに来た理由は、トンカツレシピに塩が合うと書かれていたことだ。
リリはトンカツに醤油をつけて食べているが、どうにも味が納得できないらしく、塩の存在を知ってから白竜の元を訪れる日を楽しみにしていた。
「いいから、食べる」
「断る」
「やっぱり、赤竜の時みたいにある程度力を見せてから餌付けしないとダメかな?」
「そうかもしれない」
砂糖を手に入れるため、初めて赤竜の所へ行った際もやはり攻撃され、しかたなく私達の力を見せてようやく話を聞いてもらえる状態になった。
砂糖を使ってスウィーツを作りたいと話し、実際に赤竜に食べてもらって餌付けに成功したのだ。
「ま、待て!!赤竜だと!?お前達は、スウィーツを作る姉妹か?」
「あれ、知ってるみたい」
「そうです。私達が赤竜さんに砂糖を貰ってスウィーツを作ってる者です」
「それを、早く申せ」
白竜は先程までの交戦的な態度が嘘のように豪快に笑い出すと、足元の岩を退かして大きな壺に取り出した。
壺から溢れる砂糖のように白くキラキラと輝く粒が塩だと直ぐに分かった。
白竜は爪で塩を掬い上げると、トンカツに振り掛け、積み上がった大量のトンカツを掴むと口に運んだ。
人間であれば有に50人前はあるトンカツを一口で食べる姿は何とも豪快で思わず見惚れてしまう。
隣にいるリリは、どこか悲しそうだった。
「な、な、な、なんだこれはーーーー!!!」
目を見開いた白竜は叫ぶと、そのまま咆哮となって私達にぶつかってくる。
「なるほど。赤竜の話は本当であったのだな。よかろう、塩をくれてやる」
「やったぁーーー」
「歓喜」
白竜は大きな壺を私達の前に置くと、「好きなだけ持っていけ」と言ってくれたため、容器に入れて行く。
次回来る時にもトンカツと引き換えに塩を貰える約束をした私達は、しばらく白竜と他愛のない話をしてから帰路に着いた。
帰路と言っても、『転移』スキルがあるから一瞬で戻れるのだけれど。
お店に戻った私達は、ストックの無くなったトンカツを大量に作り、次いでに明日の営業分のシュークリームとマカロンも作った。
料理に没頭している内に夜となり、20時を過ぎた頃、扉がノックされた。
例の如く『隠蔽魔法』を使用してから、扉をノックした相手に言葉をかける。
「入るがいい」
予想していないその反応に戸惑いを見せながらも、アルネがお店の中に入って来た。
「そこに座るがいい」
「あ、ああ」
お店のカウンター前に立つ私とリリは、中央に置いてある椅子に座るよう促す。
「話は聞いている」
「あ、あの?」
「なんだ小童」
アルネさんは頬のあたり掻きながら、躊躇いを見せた。
まるで、本当のことを言った方がいいのか、このまま気づかないフリをして大人の対応をするべきなのかを悩んでいるように。
「やはり、言うべきだな。ミミとリリは、何か劇の稽古中なのか?」
「おかしい。なぜ、分かる」
「本当だよ。何でバレちゃうの?」
「いや、服装も変わってないし、何というか、無理に大人びたように話そうとする可愛さが滲み出ているというか」
私とリリはお互いの容姿を見て、服装を指差して次回の課題を確認すると『隠蔽魔法』を解除した。
「興が醒めた。早く、終わらせて、トンカツ食べる」
「今回はリリ、お願いね。アルネさん。今からあなたの右手を治します」
「て、手を?い、いや、無理だろう。ポーションでも治らない古傷だ」
「いいから、任せる」
リリはアルネさんの右手に自分の手を翳すと、スキルを発動する。
【寿命退行】開始
・・・
アルネ
・・・
2年退行
・・・
前世寿命2年使用
・・・
《前世寿命:67年6ヶ月》
↓
《前世寿命:65年6ヶ月》
リリの両手から赤色の光が宿ると、アルネさんの右手に絡み出し、一気に光が弾け飛んだ。
「終わった。さぁ、トンカツ、塩と共に」
リリはさっさと待ちに待ったトンカツを食べるため、テーブルのセットを始める。
アルネさんは感覚を確かめるように、自身の右手を開いたり閉じたりを繰り返し、やがて目からは涙が溢れ始めた。
「治ってる・・・。本当に治っているではないか」
「アルネ、一緒に食べる」
リリは既に3人分のトンカツとご飯、味噌汁を並べ終わって椅子に座っていた。
「アルネさん」
「ありがとう、ありがとう・・・」
アルネさんを支えるようにテーブルまで誘導すると、アルネさんは涙を手で拭い、私とリリを見つめる。
「私は何もお礼できるものがない。だが、この恩には報いたい。だから、私、アルネは、ミミとリリに忠義を捧げることを誓う」
ここで私とリリは気づいた。
いきなり正体が発覚してしまったことにより、いつもの「お前は、私達に何を差し出す?」の台詞を言っていないことを・・・。
まぁ、忠義を捧げられたからいいのかな?
アルネさんは涙を流しながらトンカツを食べ始めた。
今日のアルネさんには、塩は必要ないかもしれない。
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