第13話 ランクアップ
商業ギルドに魔物の素材を預けてから数日後、定休日のお店の扉がノックされた。
時間は10時過ぎで、私もリリも既に起きて朝食を済ませ、出かける準備をしている所だった。
「はい。どちら様でしょうか?」
「私よ、ミレルよ」
心なしか元気のないミレルさんの声が聞こえた。
私が扉を開けると、目の下に隈を作り、すこし窶れた姿のミレルさんがいた。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ・・・。徹夜が続いたものだから・・・」
「とりあえず、中にどうぞ」
「隈さんだ」
中に招き入れると、ミレルさんの顔を見たリリが呟いた。
私はミレルさんに紅茶を淹れると、リリはマカロンを用意してテーブルに置いた。
「マカロンだ・・・。頑張ったご褒美だ!!」
ミレルさんは両手でマカロンを取り、左右順番に齧っていく。
「もしかして、素材の査定で徹夜続きだったんですか?」
「しょうよ。あんにゃ量があったんりゃから」
「食べるか、話すか」
「手がとまりゃないの」
ミレルさんがお代わりを含めてマカロン15個を食べ終えた所でようやく本題となり、テーブルの上にゴールドに輝くカードが2枚置かれた。
「これは?」
「ランクA用の商業ギルドカードよ。2人の名前もあるでしょ?」
「ランクA!!」
「おかしい、次はBだったはず」
ミレルさんは隈を作り、少し腫れぼったい目を見開かせると、不敵に笑いながら1枚の紙を鞄から取り出した。
「今回の魔物素材の査定額よ」
「へっ?こんなに?」
「ゼロがたくさん」
紙に取引された素材と其々の買取金額、そして最後には合計額が記載されていた。
▪️買取金額
3,000,000,000G
▪️税金(30%)
900,000,000G
▪️支給額
2,100,000,000G
「21億!?」
「お金はいくらでも、ウェルカム」
「納めた税金もすごい額でしょ?その功績が認められて2ランクアップのランクAになったのよ。因みに、買取のお金は2人のカードに振り込んであるから」
私はゴールドに輝く商業ギルドカードを手に取ると、刻まれた自分の名前を見つめ、これまでの努力が認められたのだと、嬉しさが込み上げる。
リリもランクAと記載された部分を触りながら満足気な顔をしていた。
「それでね、ひとつお願いがあるの」
「マカロンの次、シュークリーム?」
「それも是非お願いしたいけど、違うことよ。ランクAは国の重鎮者扱いなのは知ってるわよね?」
「はい」
「国王様と王妃様に謁見してほしいの」
予想していなかった言葉に、私とリリは顔を見合わせて、心を落ち着けるため自分達用の紅茶を啜った。
リリの表情からすると、私と同様、断りたいのが正直な所だろう。
これまで直接王族を相手にしたことはないが、貴族とそこまで変わるとは思えない。
私達の中での貴族の印象は、理由もなくお店の営業許可を取り消したり、お店を渡せと迫ったり、まさに横暴、強引、脅迫をする輩だ。
「ミレルさん。申し訳ありませんが、できればお断りしたいです」
「同意見」
「そうだよね〜。これまでの貴族にされたことを考えれば、王族なんてもっと会いたくはないよね」
「以外な展開」
リリが大人ぶり、こめかみに人差し指を当てながら言った。
「そう言われると思ってたからね。分かったわ。謁見は何とか無しにするから、お忍びで王女様とだけ会ってくれない?」
「王女様?」
「そう。この国のニコエル・ロヘル・アスラーニ様。スウィーツのマルティナのファンみたいでね」
「フレデリクの恋焦がれ相手」
リリの言葉は耳に入ってないのか、ミレルさんは追加で出したシュークリームを目を細めて食べていた。
マカロン15個を平らげた後とは思えない勢いで食べている。
その間に、私はリリに話しかけた。
「どうする?王女様だけなら良さそうな気もするけど」
「フレデリクが惚れた女。信用できる」
「もう、リリったら」
「お忍び、どこで会う?」
リリの問いかけに、私はミレルさんを見る。
ミレルさんはどう考えても一口で食べるには大き過ぎるシュークリームを無理矢理詰め込むと、ゴクンッと音を立ててから答えてくれた。
「ここでどう?」
「お店でですか?」
「そう。きっと喜ぶわよ」
「お城に連れて行かれるよりはマシかな。分かりました。来週の定休日はどうですか?」
「おぉー、ありがとうー。これで面目が立つわ」
それからシュークリームを更に2個食べてから、ミレルさんは店を後にした。
王女様の予定次第らしいが、来週の定休日で調整する運びとなった。
「ミミ、早く行く」
「忘れてた」
「夕飯に間に合わなくなる」
ミミは扉の前で足踏みをしながら、早く出掛けるよう私を急かしてくる。
定休日だった今日、私とリリはある場所に向かうため準備していた。
荷物を確認すると、リリとお店を出て、街の外に出掛けた。
外に出た私達は、街道を外れると、『千里眼スキル』で方角を確認してから超スピードで移動を開始した。
道なき道を進み、川の上や森の中、お構い無しに進み続け、お目当ての山が見えてきた所で止まった。
止まった場所は森の中で、止まった理由は数キロ先に人間の反応が複数あったからだ。
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