第6話 冒険者お断りと物件探し






「ちょっと待って!!魔法使いなの?」




地面を這うように私達を追いかけてきた受付嬢が聞いてくる。




「魔法使いかは分かりませんが、魔法は色々使えますよ」


「右に、同じ」



私とリリの返答に、受付嬢の顔が先程まで見せたこともない笑顔に変わり、声も外向き用に変えて言ってくる。




「そう、魔法使えるのね。冒険者登録だったわよね?直ぐに手続きしちゃうから、カウンターまで来てくれるかしら」




ここまで態度が変わるのは、この世界で魔法使いは稀有な存在で希少だからだ。





「気分が変わったので、登録はしません」


「右に、同じ」



「ダメよダメ!!登録してよ。ね?」



「先程、冗談扱いされ、帰れと言われましたが?」



「それは・・・」




言い訳を考えている受付嬢の横を通り過ぎ、私とリリは冒険者ギルドの外に出ると、即座に超スピードで移動して距離を取った。





「規約には、年齢制限なしってなってたから残念だったな」


「無理してなる必要なし」


「そうだよね。今はどちらかと言えば商人だし」


「商人、儲かる」




そんな他愛もない話をしながら普通に5分程歩くと、商業ギルドに到着した。


商業ギルドは、マルヴィン王国にあったものと造りも規模感も同じで、少し心が落ち着いた。


冒険者ギルドは、建物自体古くないのに、外壁は汚れてヒビ割れ、中も清潔感のカケラもない状態だったもの。






商業ギルドに入ると、全ての受付カウンターが埋まっていて、何人か待っている人もいたので、私達も受付表に記載し、待つことにした。



しばらく待っていると、受付カウンターが空き、順に案内され始めた。



しかし、待っていた全ての人が呼ばれ、後から来た人が先に呼ばれても、私達が呼ばれることはなかった。





「ミミ、舐められてる」


「うん。受付係のあいつだよね?」


「慧眼」




受付表の横に立っている男は、明らかに私達を無視し、後から来た人を先に案内している。




「また、エクスプロージョン?」


「流石に捕まる。ミライさんみたいな人がいればいいのにな」



「あなた達、ずっと待ってるわよね?受付はしたの?」




私とリリの間に顔を突き出し、青いショートカットの女性が話しかけてきた。




「受付はしたんですけどね・・・」


「蔑ろ」



「ふう。ちょっと待っててね」




女性はそう言うと受付係の男性の元まで歩み寄り、何かを告げている。

男性は真っ青になりながら項垂れると、力無く去っていた。





「本当に申し訳なかったわ。今すぐ対応するからこっちに来てもらえる」


「は、はい」



女性の後を着いて行くと、受付カウンターを通り過ぎ、階段で2階に上がった先にある個室に案内された。




「中に入って座って」



個室の中は広く、大きなデスクに来賓用のソファー席があり、壁際には書庫が並んでいた。


ソファーに座ると、向かい側に女性が座ってきて、私達の顔を凝視してくる。




「あなた達、もしかしてミミちゃんとリリちゃん?」


「どうして私達の名前を?」


「諜報員?」



「驚かしてごめんなさいね。私は、ミレル。ミライの姉よ」


「ミライさんのお姉さん!?」




ミライさんはマルヴィン王国の商業ギルドでお世話になった人で、言われてみれば、髪色も青で同じ、顔もよく見ると似ているかもしれない。 



それにしても、ミライ、ミレル、姉妹で未来が見えるって意味なのかな?




「ミライからあなた達の話をよく聞いていたのよ。けど、何でアスラーニ王国にいるの?」



ミレルさんの当然の疑問に対し、これまでの経緯を話した。

その上で、土地の借用と店舗開店の相談をしたいと伝えた。




「何やってんのあの国は・・・。だけど、私には好機だわ。早速なんだけど、マルヴィン名物のシュークリームとマカロンを試食させてもらえないかしら?」


「いいですよ」


「歓喜するといい」




私は『亜空間収納』から『シュークリーム』と『マカロン』を取り出し、テーブルに乗せた。




「こ、これが、伝説のスウィーツ・・・」




ミレルさんはシュークリームを手に取ってかぶりつくと、瞳に涙が溜まり始め、天を仰いで固まってしまう。




「い、い、生きてて、よかった・・・」




続けてマカロンを口にすると、堪えていた涙が瞳から溢れる。




「おいぢぃ、美味しいよーー」




ミレルさんは泣きながらマカロンを食べ終えると、我に返り、顔を赤くしながら涙をハンカチで拭った。



するとソファーから立ち上がると、書庫にあったファイルから3枚の紙を抜き取り、テーブルの上に置いた。






《物件情報》


▪️1枚目:王都中心 2,000平米 月200万G


▪️2枚目:王都中心 1,000平米 月100万G


▪️3枚目:王都郊外 2,000平米 月70万G








「私的には1枚目がおすすめよ。王都中心でこの広さは中々ないから。それと、今なら私の権限で初期費用は無料にするわ」


「初期費用が無料!?」


「只者じゃない」



「あれ?ミライから聞いてない?私もミライもギルドマスターなのよ」


「ギルドマスター!!偉い人だったんだ・・・」



「偉いって言っても、ノルマが達成できなければ直ぐに入れ替わる役職だしねー」




ミレルさんは、空になった皿を指でなぞりながら言った。

初期費用無料ならと、私は追加でシュークリームとマカロンを出した。



ミレルさんは目を輝かせて食べ始める。





その間に物件を吟味する。

200万の家賃なら、正直どうとでもなるし、何より1枚目は立地がいい。



中心街且つ、大通り沿いで集客も見込めるし、広い土地のため馬車止めのスペースも確保できる。



リリの方を見ると、私と同じように1枚目の物件しか見ていなかった。



2人で目を合わせて頷くと、1枚目の物件を指差し、同時に言った。






「ここにします」

「ここにする」










★★★★ ★★★★ お知らせ★★★★ ★★★★



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