第5話 商業ランクと冒険者ギルド
翌日、ライス村の人達に別れを告げ、私達はアスラーニ王国の王都を目指していた。
昨日同様、超スピードで走っていると、リリが話しかけてきた。
「アスラーニ王国、冒険者ギルド、入れる?」
「どうかな・・・。年齢制限がないといいけど」
「魔物の素材、早く売りたい。お金、大好き」
「そうだよね。亜空間に収納していて劣化しないとはいえ、いい加減、売りたいよね」
私達は高ランクと言われる魔物をたくさん倒している。
主な理由は、コカトリス(Sランク)が『鳥の唐揚げ』に、キングピッグ(Sランク)が『トンカツ』の材料になるからなのだが・・・。
それと、冒険者ギルドに関しては、民間組織となりその国毎で冒険者登録のルールが異なる。
以前いたマルヴィン王国では、12歳以上と規定され、登録することはできなかった。
なお、今私達が登録している商業ギルドについては、国の管轄となり、どの国でも初期費用を支払れば年齢制限なく登録できる。
商業ギルドは登録者が商業に成功すれば国に税金が入り、失敗しても国には何の影響もない。
反対に、冒険者ギルドは一歩間違えれば未成人に死人が出て、民間組織である冒険者ギルドが責任を負う必要性も出てくる。
何にしても、冒険者登録できなければ素材も売れないため、アスラーニ王国で無事登録できることを祈るばかりだ。
「見えた」
「本当だ。これが王都アスラーニ」
冒険者登録を考えている内に、周辺が高い城壁に囲まれ、入口の両脇に10メートル程の槍が建てられているアスラーニの象徴的な光景が見えてきた。
入口には、恐らく商人のものであろう馬車や冒険者らしき人が列を成している。
私達は、入口の脇にある列ができていない特別検問所に直行した。
「お嬢ちゃん達、駄目じゃないか。ここは、貴族様か、商業ランクのC以上、冒険者ランクのB以上の人しか利用できないんだよ」
「確認するといい」
マルヴィン王国でも門番さんが慣れるまで何度もやった件だ。
リリは、この瞬間が思いのほか好きらしく、自慢気に商業カードを門番に見せる。
「えっ、Cランク!!」
「どうしたんだ?この子達が我儘言ってるのか?」
私は後から来た門番に同じく商業カードを見せた。
「なっ!!Cランク・・・」
「ほ、本物だ・・・」
門番達は、今までの対応を気まずく思っているのか、俯き加減で「どうぞ、お通り下さい」と特別検問所の門を開いた。
それもそのはずだ。
商業ギルドは国直轄組織であり、国への貢献によってランクに分けされ、Cランクは高い位置付けとなっている。
《商業ギルド 特別ランク》
Sランク:国にとっての重鎮者であり、保護対象者
Aランク:国にとっての重鎮者
Bランク:国に多大な影響を与える者
Cランク:国に影響を与える者
Cランク以上は人数自体が少なく、国としても丁重に扱うべき存在だとミライさんに聞いたことがある。
なお、D〜Gランクは、特別ランクにはならず、特別検問所も使えない。
私とリリは堂々と特別検問所の門を潜ると、石造の建物が幾つも並んだ街並み、綺麗に整備された大通りが目に入ってきた。
大通りは人と馬車用で区切られ、広く整地されているからか流れるように人が歩いている。
マルヴィン王国も都会だったのだが、その分、通りはもう少し狭くなっていて、いつも人混みができていた。
「ミミ、商業ギルドの前に、冒険者ギルドに行く」
「そうだね。まだお昼前だし、時間もあるしね」
リリは私の手を取って嬉しそうに歩き始めた。
初めての街だけど、万能『千里眼』スキルがあるから冒険者ギルドまで迷わず着くことができた。
サブスク登録しているから気にならないけど、本当は『千里眼』スキルを1回使うだけで寿命を1日分消費する。
昨日は『ライトニング・スピア』を20発放ったから、20日分だ。
サブスクは本当に便利だよ。
冒険者ギルドの前に着くと、リリは躊躇うことなく扉を開けて中に入っていく。
中に入った瞬間、アルコールの匂いと汗の臭いが鼻を突き、思わず顔を顰めてしまう。
鼻を押さえつつ、何とかカウンターに辿り着くと、長い髪を指で回している受付嬢に話しかける。
「あの、冒険者登録するのに、年齢制限はありますか?」
「冒険者登録って、あなた達がするんじゃないわよね?」
「そうですけど」
「はぁ〜、冒険者は遊びじゃないのよ。私も冗談に付き合ってる暇はないの。早く帰ってちょうだい」
受付嬢はそう言ってそっぽを向いてしまう。
背後からは、やり取りを聞いていた冒険者達が下品に笑っていた。
その下品な笑いをしてる内の1人が近づいて来る気配がした。
私は受付嬢の横に置かれていた『冒険者規約』を素早く取ると、上から下まで速読する。
そして、第10条でお目当ての規約を見つけた。
《第10条:冒険者は不当な争いをしてはならない。不当な争いの結果、重大な何かが生じても冒険者ギルドは一切関与しない》
思わず可愛い少女らしからぬ不敵な笑みを浮かべている私の肩を、大柄で筋肉を見せつけるように上半身が肌けている男が掴んできた。
「お嬢ちゃん、金がないのか?ないなら、俺が雇って可愛がってやるぜ」
肩を掴まれたことや、酷い口臭で気持ち悪くてしょうがないが、我慢して受付嬢の様子を窺った。
我関せずといった感じで、相変わらず横を向いたままで、他の職員も皆、目を逸らしている。
「汚い手をどけてくれますか?」
「あぁん、お前立場分かってんのか!?」
大柄な男は両手で私の体を拘束しようとするが、それよりも早く魔法を放った。
【グラン・エクスプロージョン(炎小)】
爆発と共に炎を纏った柱が大柄の男を掠めて冒険者ギルドの天井を突き破った。
大柄な男も、周りにいた冒険者も爆風によって壁に打ち付けられ、受付嬢がいたカウンターも破損していた。
「リリ、行くよ」
「うん。私も魔法打ちたかった」
冒険者ギルドを後にしようとした私達に、爆風によって顔が黒くなっている受付嬢が慌てて追いかけて来た。
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