第4話 寿命退行






私とリリが家に入ってから間も無く、村人の男性が扉をノックしてきた。





「入れ」


「は、はい」




恐る恐る扉を開け、村人が部屋に入ってくると、私とリリの姿を見て目を見開いた。





「あ、あの、先程の少女達はどこに?」



「案ずるな。姉妹より話は聞いている」


「もっと近づくといい」




村人が驚くのも無理はない。

『隠蔽魔法』により、私とリリの見た目は20歳の素敵なレディに変わっているのだから。



夜の家業は特殊なため、普段の幼い姉妹ではなく、『隠蔽魔法』で大人の姿で行なっている。






「願いは、村人を救う、それで相違ないか?」



「は、はい」



「お前は、私達に何を差し出す?」





台詞の内容とはまったく異なった意気揚々とした口調でリリが言う。


加齢できない反動からか、大人モードになるとリリはいつも高揚してしまうのだ。





「こ、この村は、決して貧困ではないですが、裕福でもありません・・・。だから、金はあまり出せません」



「再度、お前は、私達に何を差し出す?」





私達は『スウィーツのマルティナ』で稼いでいるため、お金には困っていない。

だからこそ、お金以外で相手が何を差し出すのか、どのような思いでそれを差し出すのか、それが大切だと思っている。



因みに、前世でのマルティナに習い、稼いだお金の一部は教会や孤児院に寄付しているので、そこは誉めてほしい。






「この村は、みんなで小麦と米を育てています。いずれも家畜の餌としてしか売れませんが、それでも、みんなで一生懸命育てているものです。それを差し出す、では駄目でしょうか?」



「それ、いい」


「こら。コホンッ。村人が丹精込めて作った小麦と米。いいでしょう。今後、あの姉妹に優先的に販売することを約束しなさい」



「販売?差し上げるのではなく・・・」



「ええ。販売で構いません。ですが、今後、王族、貴族から話があってもあの姉妹に優先的に販売するのです。並大抵のことではありませんよ」



「約束します!!村の連中を助けてくれるなら、なんだってします!!」





村人は力強く私を見ながら言ってきた。


圧倒的な力で盗賊を倒した姿を見ているとはいえ、こんな胡散臭い話を疑うこともなく真っ直ぐに信じている。


この村人になら、力を見せても大丈夫だろう。






「分かりました。村人30人、それぞれの時間を2日前に戻しましょう」



「今回は、ミミでいいの?」


「うん」



小声で聞いてきたリリに、私は返事をした。





私は両手を上空に翳すと、『千里眼』スキルで倒れている村人の位置を確認し、自身の寿命に触れる。








【寿命退行】開始





・・・



村人30人



・・・



2日退行



・・・



60日分



・・・



前世寿命2ヶ月使用



・・・






《前世寿命:66年4ヶ月》



《前世寿命:66年2ヶ月》











私の両手から赤色の光が宿ると、上空で円の形に膨れ上がり、刹那、一気に30本の閃光が村人に放たれた。




家の中にいるため外の状況は分からないが、『千里眼』スキルを見る限り毒状態は解除されている。


それに、避難していた村の女性や子供達の喜ぶ声や、泣き声が聞こえてきているから、無事、うまくいったようだ。





「うまくいったようです。さあ、村人の元へ行ってあげなさい」



「はい、ありがとうございます!!」



「最後に、言う。病気や死人は治せない。覚えておく」



「わ、分かりました」




村人は深々と一礼すると、走って家の外に出て行った。




最後にリリが村人に伝えた話。



私とリリは『寿命』を駆使したスキルが使え、今回は村人の寿命(時間)を2日前に戻した。




だが、万全ではない。




既に対象が死んでいる場合、人的ではない病気に侵されてる場合、これらは治せない。



病気の場合は、退行して発症する前に戻したとしても、きっとまた病気になるだろう。

また、寿命を延伸した場合も、病気自体が治る訳ではないのだ。




それでも、救える命は出来る限り救いたいと思っている。






「ミミ、米、ゲット」




『隠蔽魔法』が解けたいつもの幼さなさが残る笑顔でリリが言ってきた。



この世界で、小麦は主流で手に入れやすいが、米は滅多に手に入らない。


どちらも家畜の餌に用いるのだが、小麦の中でも質の良いものは人間も食している。

だが、米は基本人間は食べずに、家畜の餌としてだけ使われている。



そんな状況で、必然と米の生産は減り、どちらも賄える小麦が主流となったのだ。





「久々に炊き立てご飯が食べれるね」



「うん。米は、至高」





リリは早速調理場に移動すると、『亜空間収納』から『コカトリス(ランクS)』を取り出し、下準備を始めた。





「気が早いよ、リリ。まだ、お米買ってないよ」


「ミミ、頼んだ。私、鳥の唐揚げの準備する」


「本当に好きだね」


「鳥の唐揚げも、至高」





リリは鼻歌を唄いながらコカトリス、あらため鳥を捌いていく。



私はそんなリリを微笑ましく見つめると、村への滞在許可と、お米を買うため、家の外に出た。




家の外に出ると、50名程の村人が立っていた。

恐らく、村の規模からすると、全ての村人が集まっている。






「私はオコメ村の村長、ライスです。この度は、村人を救っていただき、ありがとうございました」



「いいえ。助かってよかったです」




少し緊張しながら話すライスさんに、私は出来る限りの笑顔を見せる。






「何と優しい、女神のような笑みだ」



「えっ、あら、やだ、ありがとうございます」




加齢しないが、本来の私は12歳。

お年頃になってきて褒められれば素直に嬉しいのだ。


照れる私に、ライスさんに似た男の子が歩み寄ってきて米俵を渡してきた。





「私はライスの息子、ハンライスです。このお米を受け取って下さい」


「ありがとうございます。おいくらでしょうか?」


「今回は是非、お礼として受け取って下さい」




ハンライスがそう言うと、村人は全員その場に両膝を着き、祈るように両手を胸の前で合わせた。


褒められるのは好きだが、崇められのは苦手なため、私は次回から購入するということで今回は素直に受け取った。






「村人、何人?」


「50人くらい」


「りょ」





突然家の中からリリが出てきて村人の人数を確認すると、直ぐに戻っていった。


どうやら、自慢の鳥の唐揚げを村人に振る舞うみたいだ。





この世界では、砂糖も、塩も、ドラゴンが管理している。

胡椒も同じようにドラゴン以外の者が管理しているようで、普通では調味料が入手できないのだ。




けれど、私達には『鳥の唐揚げ定食』のレシピに記載されていて作った醤油がある。

味噌もあるのだ。







だからこそ、この日、村人の『うまーーーい』という言葉が何度もこだましたのは言うまではない。








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