東火節の四週目 《涙》の月

東火節ガータクスカ・の四週目ヴァンクィヴァム 《リューオラ》の月




 嘆きの神殿テムナイ・ドゥルミールを後にし、私は先に進んだ。エヴェロイが滅んでから人はかなり減ったものの、まだこの地に住み続ける人々がいた。

 かつては葡萄畑ウーゾル・テーテルだった場所で細々と暮らす村人に出会った。彼らは小さな土の神殿テムナイ・ユーメルを拠り所としており、自分たちも一〇〇年後には滅ぶだろうと話した。

 夜には嵐が来るからと村人の一人が家に泊めてくれることになった。私は野良仕事の手伝いを買って出て、その合間に面白い話を聞いた。

 ドンダルヴァエの葡萄酒フェリコは古くから美酒として知られており、エヴェロイが滅んだ後も一〇〇年ほど醸造されていた。作り手がいなくなってからも数十年は味われることもなく保管されて高値で取引されていたが、古い瓶は密閉には適さなかったため発酵が進み、ガスが抜けなかった瓶が爆発するという事態が相次いだ。そのために《ドンダルヴァエの酒瓶タルハ・ドンダルヴァヤ》は思わぬ災厄を表す言葉となったという。

 この日の夕餉に出た葡萄酒フェリコはかの有名な酒には遠く及ばないだろうが、十分に私の渇きを癒した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る