第36話

 治癒魔術ヒールでソフィーに応急処置をし、どうにか入り口の部屋まで戻ってきたのだが――


「警戒しろ!! 何者かが攻撃をしてきている可能性がある!!」

魔力感知サーチで索敵をしろ!!」


 などという声が外から聞こえてきた。


(戻ってくるの、早くないか?)


 当初の計画では、もう少し時間的余裕があったはずだ。


『お忘れですか? あなたは死の運命で呪われていることを』


 悪霊の発言に舌打ちを鳴らす。


『世界をあなたを殺すために収束しますわ。さあ、どうなさります? 相手も魔力感知サーチで捜索を開始してますわよ? すぐにみつかるでしょうね』


 自分の魔力を周囲に擬態させ、魔力感知サーチの目を誤魔化す手法もあるらしい。だが、今の俺にそんな天慶スキルは無いし、仮に修行して使えるようになっても、ソフィーたちが使えない。


 外で気配が変わった。

 どうやら、この小屋に俺たちが隠れているのがバレたようだ。その証拠に魔力感知サーチで走査をかけたところ、小屋を囲うように騎士たちが集まってきている。


『絶体絶命ですわね♪ いくら修行で強くなったとはいえ、あなたが一度に相手できる騎士の数は五人ですわ。それも、筋力が向上している万全の状態でですわ……』


 楽しそうに邪悪な笑みを浮かべてやがった。


『わたくしでしたら、あの程度の騎士が何人集まっても、片手間で全滅させられますわ。さあ、どうなさります? ね~、ね~、どうなさりますぅ?』


 なんて腹立つ煽り顔をしてやがる。マジでムカついたが、この悪霊をわからせてる時間すら惜しい。


「そこに隠れてるのはわかっている!! おとなしく出てこい!!」


 小屋の外では篝火を持った騎士たちが集まってきている。その数は、三十から五十。もっと増えていくだろう。

 たしかに万全の状態でも、今の俺一人で勝てる数じゃない。


 今の俺なら――


「ファヴ、お前ってさ、竜の姿になれるよな?」

「なれる。あっち、本当」


 俺とファヴの会話を聞いて、ソフィーが「え?」みたいな声を漏らした。いちいち説明している時間も無い。


「俺たち乗せて逃げれるか?」

「ひと、滅ぼす?」

「それはせずに飛んで逃げるだけだ。お前、なんかボーボー燃えてるじゃん。背中に乗れたりするのか?」

「温度、下げる。ファヴ、とても弱くなる。でも、できる」


 弱体化はするが、俺たちを乗せて逃げることは可能ということだ。


 こいつの力を借りる場合、最悪、被害がでかくなるし、目立つし、一緒に逃げれば魔女としての真実味が増してしまうのだが……命のほうが大事だ。


「よし、じゃあ、屋根を吹き飛ばせ。その隙に竜になれ。おい、ソフィー、ファヴに乗って逃げるぞ」

「え? え? なに? 乗る? 性的な意味で? ダメだよ!! 絶対ダメ!!」


 なに言ってんだ、こいつ……。


「大人しく投降しろ! でなければ、攻撃を開始する!!」


 時間が無い!


「やれ、ファヴ!!」

「えんやこら」


 ファヴが天井を睨んだ瞬間、目から光線が光り、屋根が吹き飛んだ。同時に爆発。噴煙をまき散らしながら――


「ぐぎゃああああああああああああ!!」


 フレイムドラゴンが現れた。


「なんだ、あれは!?」


 などと騎士たちが右往左往する声が聞こえてくる。そんな中、ファヴが這いつくばるように頭を垂れてきた。俺は意識の無いフレッドを背負いながら、惚けたソフィーに叫ぶ。


「いいから乗るぞ!!」

「え? あ……うん……」


 尻尾のほうからファヴの背中に乗っかる。鱗に手をしっかりひっかけながらファヴの背中に叫んだ。


「逃げろ、ファヴ!!」

「ぐぎゃあああああああ!!」


 叫びながらファヴが翼をはためかせる。突風が巻き起こり、騎士たちも耐えるように構えた。


「団長! 背中を!!」


 騎士たちが背中にいるソフィーを指さしている。


「竜を従えるとは! やはり魔女だったか!! 魔術弾丸バレットの術式合わせぇぇ!!」


 騎士団式の号令が響く。


「連中、魔術撃ってくるぞ!!」


 俺の言葉に合わせてファヴは飛び上がる。何発か魔術弾丸バレットで放たれた魔術弾が当たっていたが、ファヴは意にも介さない。


『た、高いですわぁぁぁぁっ!!』


 高所恐怖症なのか、三角座りのまま膝に顔をうずめている。落ちても死なないのに、高いところは苦手らしい。


「すごい……ファヴちゃん……え? 竜?」

「あとでいろいろ説明するよ。それより、今は逃げ――」


 不意にルリアが膝から顔をあげた。


『ファヴニール!! 来ますわ!! 回避っ!!』


 ファヴの翼を光が貫いた。


「ぐぎゃあああああああ!!」


 ファヴの絶叫。そのまま高度が落ちていく。


『お、落ちますわぁぁぁぁっ!!』


 速度は下がらず、高度が落ちていく。目の前には城壁。


 俺はソフィーとフレッドを抱きかかえたまま魔術式を並べた。


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