第24話
「雑魚、皆殺し。ファヴ、嬉しい♪」
人間の姿に擬態した殺戮ドラゴンが、笑顔でトテトテと歩み寄ってくる。着ている服は燃えたのか、どこかにいってしまったのか存在しないので素っ裸だ。
俺はため息まじりに装備を外し、着ていたチュニックを脱いで手渡した。成人男性用のサイズなので、ファヴにはブカブカだが、それでどうにか肌は隠せた。俺はシャツの上から皮鎧をつけ直しながら、かつて森だった場所を眺める。
未だに煙をあげながら森は燃えていた。雨でも降らなきゃ消えないだろう。
森の木というのも、街や領主にとって財産である。正直、やりすぎだとは思うが、
「本当にもう魔物はいないのか?」
「クソザコ、逃げた。ダンジョン、帰る。情けない」
煽るような笑みを浮かべていた。このメスガキめ……。
「俺たちも帰るぞ」
ま、冒険者の被害はほぼゼロだと思うし、最後まで戦った俺とムスタグの報酬は高めだろう。これで俺の夢のリスタートは始まったわけだ。
『ファヴニール、褒めてあげますわ。あなたはわたくしの駒として有用ですわよ』
「ファヴ、復讐、手伝う。ひと、滅ぼす♪」
『いいですわ、いいですわ! あなた、わたくしの家臣にしてさしあげますわよ♪』
邪竜と悪霊の親密度がどんどんあがっていくのが怖いんだが……。
まあ、さすがの俺も疲労が溜まっている。余計なことを考えず、すぐにでも眠りたい。
街のほうへと戻ろうとしたところで馬に乗った騎士が五人ほど現れた。おそらく騎士団の斥候だろう。
「これは……」
馬上で燃える森を見つつ驚いた声をもらす。そのまま俺たちへと金髪碧眼の青年騎士が視線を向けてきた。
「どういうことだ? 魔物は? あのドラゴンはどこに消えた?」
「魔物はムスタグとドラゴンが皆殺しにしました。一応、俺も手伝いましたけど……」
「さすがはムスタグだな」
うん、俺のことは眼中に無いようだ。それでいい。
「で、ドラゴンはひとしきり暴れて森を焼いて、どこかに消えました。ダンジョンに帰ったんじゃないですかね?」
「それは本当か?」
「確証はありませんけど、あの火の中、調べに行くこともできませんし……」
「なるほどな。貴様らは俺と共に来い。詳細を知りたい」
と、俺に命じた金髪騎士は残りの四人に向けて「お前たちは引き続き斥候を続けろ。まだ魔物が残っているかもしれん」と命じる。
「ついてこい」
ため息が出てきそうになるのを我慢し、俺は騎士様についていった。
そのまましばらく歩くと騎士団本隊と合流した。馬から降りた金髪騎士は、その上司と思われる髭面のおっさんに何やら報告をしている。そんなやりとりをボケっと見ていたら「生きてたか」と声をかけられた。
振り返れば、応急処置を終えたムスタグが立っていた。
「あんたも無事そうでよかったよ、ムスタグ」
「あのドラゴンはどうなった?」
「ダンジョンのほうへ向かって消えてったよ。帰ったんじゃないか?」
「……まさか、魔物に救われるとはな」
ムスタグが苦笑いを浮かべる。
「お前の働きは報告してある」
と言いながら耳打ちしてきた。
「安心しろ、
「助かる」
と言いつつ肩をすくめた。
「ただ、あんまり目立ちたくないんだ。俺はあんたとドラゴンが魔物をほとんど倒したって伝えてある。俺は、なんかサポートしてたくらいで頼むよ」
ムスタグは訝しむように俺を見てくる。
「お前の働きなら、中級冒険者にあがれるぞ。いや、上級だって狙える」
「俺の夢は料理人なんだよ。冒険者として目立ちたくない」
「欲の無い野郎だ……」
苦笑を浮かべていたが「お前がそれでいいならかまわんさ」とうなずいてくれた。そんなやりとりをしていたら、金髪騎士が近づいてくる。
「詳細を聞きたい。二人とも、こちらに来てくれ」
と言われ、髭面のおっさんと金髪騎士。他にも偉そうな騎士たちの前で俺とムスタグとファヴは立たされた。ファヴには変なことを言わないよう釘を刺しておいたが、話を聞いているのか「ファヴ、眠い」とアクビをしている。
そんな中、魔物との戦いについて尊大な感じで尋ねられた。ムスタグも雑な感じで対応しつつ、自分の無罪放免の約束を確認していた。基本はムスタグが戦い、俺はフォローで戦ったという体である。
「どうして貴様が最後まで残ってたんだ」
と尋ねられたので、ファヴの頭に手を置きつつ「こいつとはぐれたんで探してました」と答えた。
「どうして子供を連れてきた?」
「こいつ、なかなか才能がありまして、いろいろ使えるんですよ」
ということにしておく。その言葉にムスタグも「ガキなのにすばしっこく動いてたぞ」と後押ししてくれた。
などと報告を終えた頃には、空は暗くなっており、その日は騎士団の野営地で休むことになった。まあ、騎士団は騎士団で森の消火活動で大変だったらしく、明け方までうるさかった。次の日の朝でも森の消火は終わっていなかったが、俺とムスタグは解放されたので、そのまま街まで歩いて帰った。馬くらい貸してくれてもよかったと思う。
街についたところでムスタグが背中を叩いてきた。
「お前には貸しができた。いつか返す」
「期待しないで覚えとくよ」
と軽口を叩きあいながら街へ入る。
城壁内も
当然の如く、俺のことなど眼中に無いかのような雰囲気だった。
『ぐぬぬぬ……よいのですか? チヤホヤタイムを奪われましたわよ?』
(別にかまわねぇよ。こんなことで褒められても嬉しくないしさ……)
料理がうまいとかそういう意味でならチヤホヤされたいが、冒険者としての評価は欲しいとは思わない。
まあ、割と早い段階で逃げたコーマックがムスタグ同様チヤホヤされているのは、ちょっとどうなんだろう? と思わなくもないが、まあ、冒険者だって人気商売だ。そういう自己アピール能力は大事なんだろう。
「
という話声が聞こえてきた。
「ああ、魔女が捕まったから魔物どもも逃げてったんだろうさ」
魔女? と少し引っかかった。
嫌な予感に俺の足取りは早くなる。
『どうなさったのですか?』
「魔女ってのが気になるんだよ」
急いでフレッドの店へと向かった。まだ開店前ということもあり、客は誰もいない。そんな中、フレッドが椅子に座りながらうなだれていた。
「おい、フレッド! ソフィーは!?」
フレッドが涙をこらえるような顔で俺を見た。
「捕まっちまった……すまねぇ……」
その言葉に俺は膝から力が抜けてしまった。
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