第23話
「ゾンビは友達。ゾンビは友達。ゾンビは友達……」
なぜか、そんな言葉が勝手に口から出てくるし、
修行中にいったい何があったのだろう? 記憶にないトラウマを抱えているというのもおっかない。
頭の中にある鳥観図には、当然、生み出されるゾンビたちも並ぶ。数で言うと、まあ、千二百五十四体と言ったところだ。
普通、
一日一回こっきりの大魔術。
なんか知らないが、俺は
そのため、ここまで戦力を溜める時間が必要だったのだ。
「進撃開始」
魔術でつながったパスで指令を出す。
瞬間、死者の軍勢が魔物の軍に襲い掛かっていった。濁流を濁流で押し返す。それこそ、死体に恐怖は無い。命令のままに単調に。体が壊れても臆することなく、死体を増やしていく。
『決断が早いですわね。敵を倒すには、まだ足りませんわよ?』
「しかたがないだろ、ムスタグが死にかかってたんだし」
『あんな匹夫のために? 愚かな決断ですわよ?』
「サティには世話になってたし、元パーティーの連中が迷惑かけたしさ、見捨てるわけにはいかないだろ?」
『わたくしのお金が返ってこない原因を作ったのに?』
それはそうなんだが、ムスタグの行為を非難できるほど俺は人間ができていない。俺だってソフィーがサティのように傷つけられたら、全力でオウルたちを殺していただろう。
『本当に甘いですわね。そんなんだと利用されて死にますわよ? 現に、このままだと最終的に魔物に押されて敗北ですわ』
「利用されて殺されたお前に言われたくねーよ」
『……ですから、同じ轍を踏まないためのアドバイスでしてよ? それに、忘れないでくださいまし。あなたには死の運命が刻まれてることを』
実際のところ、敵の数は死者の軍勢の三倍以上いるので、劣勢である。
『まあ、わたくしがあなたに代われば、一瞬で終わらせられますけど? どうなさりますか?』
「なんだ、俺に手を貸さないんじゃなかったのか?」
『ですから、あなたがわたくしに無礼を詫びて、泣いて懇願すれば力を貸してもいいと言っているのですわ。謝罪を受け入れても良くってよ?』
「謝罪のチャンスなんていらねぇよ。おい、ファヴ」
帰り血で全身真っ赤なファヴが抱き着いてきた。血のにおいで臭いし、べたべたしてて気持ち悪い。
「なに? つがう?」
「発情するな」
「血、好き。ファヴ、興奮」
血を好むなんて、本当に邪竜だ。
「もうこっちの連中はほとんど逃げたし、森の中まで攻めてけ。そこで竜になって暴れろ」
にんまりとファヴが邪悪な笑みを浮かべる。
「皆殺し、ファヴ、楽しい!」
「人には絶対手を出すなよ」
「……残念。雑魚、滅ぼす」
多少、不満げな顔をしていたが、すぐさま跳ねるように魔物の群れへと突っこんでいく。しばらくしたところで森の中で炎の柱があがり、木々の上に火焔竜の首が伸びてくる。
座り込んでいたムスタグが絶望するようにうなだれる。
まあ、フレイムドラゴンなんて、グリムワの冒険者では到底倒せないし、騎士団総出でも厳しいだろう。
なにも知らなきゃ俺だって絶望している。
『あらあら、派手にやっていますわね』
炎で森ごと魔物を焼き殺しているのだろう。それどころか、俺の用意した死者の軍勢も巻き込んでやがる。爆発は起きるわ、火柱があがるわで、ひどい有様だ。あいつ、森を全て消し炭にでもするつもりなのか?
ため息まじりにファヴの凶行を見ていたら、ムスタグが立ち上がり、ヨロヨロした足取りでこちらに近づいてきた。
「おい、あれは無理だ。勇者でも連れてこないと勝てない。逃げるぞ」
「……しばらく残ってるよ。逃げるなら、先にどうぞ」
ムスタグは驚いたような目で俺を見た。
「お前、本当にあのアインか?」
「どういう意味だよ?」
「さっきの
「え? なんのことだ? さっきのあれって誰か別の人がやったんじゃあ……」
ムスタグは短く笑う。
「まあいい。そういうことにしとく。てめぇもサティのことは許してやれ」
「許すもなにも、なんのことを言ってるのかさっぱりだね……」
「それでいい」
と言いながらムスタグは立ち去っていく。俺は大暴れするファヴを見ながら、かなり引いていた。
あいつ、超バケモノじゃん。超強いじゃん。
なんなら死者の軍勢とかもいらないレベルじゃん。
それが人類に対して害意を持つ邪竜となれば、ますます放置するわけにいかなくなってくる。それどころか、そんな邪竜を瞬殺してしまう悪霊まで俺の中にいやがる始末……。
このままではダメだ。
邪竜を滅ぼし、悪霊をブチ祓わなければ、俺は安心してメシ屋を開業できない。
どうにかしなければ……!!
「うわぁ……めんどくせぇ……死にたくなるほどめんどくせぇ……」
『生きるのが嫌でしたらソッコーで代わりますわよ? ファヴニールも復讐の駒として少しは使えそうですし』
真正面に立たれ、ニッコリと微笑まれた。その背後の森は燃え盛り、炎の中でファヴが楽しげに声をあげながら火焔を吐いていた。
まさに地獄絵図……。
結局、俺が用意した死者の軍勢と、ファヴの大暴れで魔物たちはダンジョンの中へと撤退していった。
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