第21話
しばらく歩いたところで平野に出た。ダンジョンのある尖塔は、更に森を抜けた向こうにあるのだが、ムスタグが止まるように指示を出してくる。
「来るぞ!! 戦闘準備っ!!」
言うや否やムスタグはナタ剣を引き抜いた。同時に視線の先にある森がザワつき、木々の合間から影が出てくる。
一斉に魔物が飛び出してきた。
ゴブリン、スライム、オーク、ダイヤウルフ、などなど、様々な種類の魔物が濁流の如く押し寄せてくる。
「
筋力を強化する
まるで筋肉の弾丸だ。
ムスタグがナタを振り回す旋風となり、魔物の群れを切り崩していく。それを皮切りに冒険者たちも魔術の援護射撃を魔物の群れへとぶち込んだ。
「援護射撃! 魔術を使える奴は魔物を撃て! 抜けてきた奴を前衛で斬り捨てろ! 仲間撃つんじゃねーぞ!!」
誰かが叫ぶ。
『リーダーのくせになんの指示も出さないで、一騎駆けだなんて……脳筋ですわね』
俺もそう思う。
でも、ムスタグはあれでいいとも思った。
だって、アホほど強いのだ。アレが味方なら、なんか勝てる気がしてくる。
不意にファヴが服を引っ張ってきた。
「アイン、ファヴ、どうする?」
「俺を手伝ってくれ。ただ、姿は変えるなよ」
「この姿、弱い」
「でも、雑魚相手には行けるだろ?」
「いける。でも、つまらない。雑魚、一掃。楽しい」
殺戮と闘争を好むタイプの邪竜らしい。
「お前は俺のフォローだ。行くぞ」
俺も戦場へと駆けだしていく。
剣を抜きながら、魔術の弾雨を抜けてきたゴブリンの首を刎ね飛ばす。次は飛び掛かってきたダイヤウルフの喉を突きながら勢いのまま後ろへ投げ飛ばした。トモエ投げという投げ技らしい。
うん、俺、強くなってる……。
もともとゴブリンやダイヤウルフに負けるほど弱くは無いが、なんというか、背中にも目がついているような感覚というか、眼球が勝手に動いて、敵の位置を確認すると頭の中で鳥観図が浮かび上がるのだ。
実際、横から襲いかかってきたオークの槍を躱しながら腕を刎ね飛ばし、流れる動きで頸動脈を斬る。
ファヴはファヴで魔物を殴り殺していた。おっかないのは、手刀でスパスパと魔物の首とかを刎ね飛ばしていることだろう。笑いながら。
「血、たくさん♪ ファヴ、楽しい♪」
うーん、邪竜……。
胸を手刀で突いて、心臓だけ抜き出すとか、俺、初めて見たよ……。
と、まあ、そんな具合でムスタグと俺とファヴが前衛で大暴れしたこともあり、戦線の膠着が続いた。その間に中衛、後衛の冒険者部隊が追いつき、戦線に加わってくる。平野を抜かれることは無いのだが、それでも数が多すぎた。
次から次に延々と敵が攻めてくるし、一刻も戦い続ければ、さすがに援護射撃も減ってくる。というか、もうほぼ無い。魔術を使ってた連中も近接戦闘の泥沼だ。
一人二人と体力の限界を迎えた者が現れ、魔物に討ち取られそうになる。そこを戦場鳥観図で事前に察知し、助ける。
「アイン……」
「下がってろ。死ぬぞ」
「こんなクズの死体マニアに助けられるなんて……」
「助け甲斐の無い奴らだな! 俺は死体マニアじゃねえ!!」
お前のせいで俺の心も折れそうだよ!! てか、オウルたちのせいで、俺、どんだけ嫌われてるの? 被害者なのに……。
「もう……ダメだ……こんなの無理だ……」
誰かがポツリと言った。その恐怖と絶望が伝播するのは、一瞬だった。
一人が逃げ出す。
それを見て、二人目が続く。
三人目以降は、もう止められない。
鉄傑のコーマックなど上級冒険者が「逃げるな!」と止めるが、そんな彼らも押し寄せ続ける魔物たちに心が折られ、後ろへと駆けだした。
『崩壊ですわね。どうするんですか? まだ敵の半分も駆除していませんわよ?』
「うるせぇ!!」
言いながら襲いかかってきたスケルトンナイトを斬り捨てた。
「こうなることくらい想定内だよ!!」
予定のうちでは、戦線が崩壊したら俺も逃げるつもりだったが、狂戦士ムスタグが戦ってる中、逃げるのは気が引ける。だって、他の上級冒険者四人はみんな逃げたし……。
「それに本気出すなら、人目が少ない方がいいだろ」
可能な限り実力は隠したい。それに、一回こっきりの大技を使うにはタイミングというものがあるし、何より下手に使えば、いろいろ面倒なことになりそうなのだ。
『愚かですわね。そこまでしてやる必要、あるのですか?』
「うるせぇ!!」
『本気を出せば、どういうことになるかわかりますでしょう? もうグリムワにはいられませんわよ?』
「そんなことくらいわかってるよ!!」
ただでさえ低い好感度が極限マイナスに振り切れる程度だろう。
「俺は嫌われ者の
だから、死体しか友達がいないとか陰口を叩かれるのだろう。
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