第18話

※急募※

 前衛で武器を扱える人募集! ※ただしアインは除く


※募集中※

 パーティーで食事を作りながら戦える人募集! ※ただしアインは除く


※アットホームなパーティーです※

 クソ屍術師ネクロマンサーアイン以外の冒険者なら誰でもいいので、俺たちとダンジョン踏破を目指しませんか?


※死体くさい屍術師ネクロマンサー以外募集※


※死体フェチは失せろ! パーティー募集中※


屍術師ネクロマンサーは死ね※


「イジメじゃね? 最後のほうは募集っていうか、俺への個人攻撃だし」


 パーティー求人用の掲示板を見ていたら、思わず口に出してしまった。

 まあ、ここ数日、いろんなパーティーに仲間に入れてくれ、と頭を下げ続けたのだが、例外なく断られた。俺がオウルたちのやったこととは無関係だし、むしろ被害者だと言っても聞いてもらえなかった。


 それだけ騎士団に捕まり、しょっぴかれていったサティの旦那ムスタグの人望が厚かったのだろう。でも、本当に俺は被害者なのに……。


『あらあら、ひどい扱いですわね。名指しで拒絶とか……』


 悪霊は笑いをこらえるようなことを言いやがるし――


「ひと、みな、アイン、敵。滅ぼす。手伝う」


 邪竜は嬉々とした顔で世界を敵に回せ、と提案してくる。

 もう、ため息しか出てこない。


「どうした、アイン。しょぼくれた顔して……」

「これを見ればわかるだろ、エラヒム」


 言いながら掲示板の求人書を指さした。


「あんたからも誤解だって、みんなに伝えてくれよ。実際、俺は被害者なんだぞ」

「そうしてやりたいのはヤマヤマなんだが、誤解を解いても無駄だろ」

「それはなにかい? 俺が屍術師ネクロマンサーだからか?」

「まあ、イメージはよくないし、ダンジョン内だと無能だからな……」


 実際、エラヒムの言うとおりだ。

 死体を扱って戦う屍術師ネクロマンサーは、イメージが悪い。例えば、自分が死んだ後、その死体を使って強引に戦わさせられるとか、想像したくない。俺だって嫌だ。でも、それが屍術師ネクロマンサーなのだ。

 更に魔物の死体を扱えればいいのだが、ダンジョン内の魔物は死ぬと魔晶石という石に変わってしまう。そのため、魔物の死骸を使うことさえできない。


 イメージが悪く、ダンジョン内では無力。

 それが屍術師ネクロマンサーの一般的な印象だ。


「……せめてオウルたちとは無関係だって説得してくれよ、頼むから」

「一応、お前さんも被害者だって言ってはいるぞ。聞かれたらの話だが……」

「もっと積極的にさ……」

「正直、上からこの件は蒸し返すなって言われててな。俺も情に流されて食い扶持失うわけにもいかねぇんだよ。ま、人の噂もなんとやらだ。そのうち、皆、忘れるさ」


 使えない冒険者のご機嫌を取ってくれるほど冒険者ギルドという組織は甘くない。世知辛い世の中だぜ……。


「家賃だって払わねーといけねーのに……」


 ため息まじりに肩を落とす。このままじゃあ、本当にソフィーのヒモだ。


 不意にカンカンと鐘の鳴る音が聞こえてきた。

 なにかの警鐘だということはわかるが、この音は聞いたことがない。エラヒムに訊こうと思ったが、エラヒムは血相を変えて勢いよくギルドの外へと出ていった。


「音、なに?」


 ファヴもキョロキョロと辺りを見回している。


「警鐘だと思うけど……」


 俺も初めて聞く鐘の音だ。火事や地震など災害時の警鐘とはリズムが違うし、山の民が襲撃してきた時とも違う。いったい、なんの警告なんだ?


 外に飛び出したエラヒムが殺気の篭った目でアインを見つめてくる。


「エラヒム、どうしたんだよ?」

「仕事探してるって言ったな? 今、できたぞ。ま、お前にはちと厳しい依頼だな」

「いきなりなんだよ? この鐘と関係あるのか?」


「お前、まさか、本当に知らないのか?」


 呆れたような顔でため息をつかれた。


「俺も信じたくねーが、とうとうグリムワでも起きたみたいだ」

「起きたってなにがだよ?」

「この鐘の鳴らし方は、一番やばいやつだ。悪いが俺はギルドの人間として動かないとならない。死にたくなきゃ、さっさと逃げるんだな」


 一番やばいやつって、まさか……。


大魔嘯ガンドシュトロームってことか?」


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