第31話 聖女とは
私は聖女就任の儀式が王都の中央大聖堂で行われると聞き、王都のリッチモンド家にしばらく滞在することにした。
私が屋敷にいるためか、使用人たちは異様に緊張しているが、私は上機嫌だった。
「あら、ビル。いつまで下半身素っ裸でいるつもり? もうズボンを履きなさいな」
ビルはズボンを握りしめながら、号泣していた。
そうだ、マークも出してあげよう。
「ハイ、マーク。もう、牢から出ていいのよ。ほら、泣かないで、以前の職場に戻りなさい」
でも、セバスチャンは許さないわよ。
「セバスチャン、腕、治っちゃったのね。もう一度、折っておくか!」
「ご、ご当主様、何卒、何卒お許しを」
「ふん、次に私に顔を見せたら、折るからね。お下がりっ」
『なあ、セバスチャンだけなぜ許さないんだ?』
「死んだメイドたちね、セバスチャンがリチャードに教えたのよ。妖精がいないメイドは誰だと聞かれて、すぐに教えるなんて、女性への配慮が全く足りないわ!」
セバスチャンは、自分が正しいことをしていると思ってしまっている。このセバスチャンの無神経さが私には許せないのだ。
ところで、私には、聖女についての知識がほとんどなかった。
ローズに聞いてみたところ、ローズの真ん中の姉が、以前聖女のお付きをやっていたということで、屋敷に招待して、色々と話を聞いてみた。
一番知りたい神との会話についてだが、年に数回神託という形でお告げが下るらしい。
「え? 会話は出来ないのですか?」
「神によるみたいです。おしゃべり好きの神とはわりと話せるみたいです。女神の場合は、神託自体が会話調らしいです」
そうか、やはり話せるのか。
「聖女って何をすればいいのですか?」
「それも聖女それぞれです。私の付いた聖女さまは一日中祈ってました」
「一日中ですか!?」
私には絶対に無理だ。
「でも、全く祈らない方もいますよ。結論から言うと、特に聖女だからって、神のために何かしなくてはいけないということはないんです。神託も鼻ほじりながらでも聞けるらしいです」
鼻ほじり……? お姉さま、伯爵令嬢の表現としてどうかしら? でも、とても良く理解できる表現だわ。
「ひょっとして楽勝ですか?」
「ええ、楽勝です。聖女って一番楽して稼げる職業だと思います。給料も地位も教皇と同じなのに、ただ各種式典に出席するだけでいいのです」
なるほど。聖女の給料は各種式典の出席料か。神のためにすることは何もないが、人のためにすることはあるということか。
「各種式典の頻度はどれぐらいですか?」
「月に数回です。王都での開催がほとんどですので、王都にいないと大変ですよ」
そこは我慢するしかないか。
「聖女は神にとっては、人の窓口というだけの存在なんです。実は窓口は誰でもよくて、別におっさんでもいいそうです。でも、教会の広告塔としての役割がありますので、代々見目麗しい乙女が選ばれます」
神からすれば、恐らく人は誰でも同じなのだろう。例えば、私がカエルの窓口を選ぶとしたら、確かにおっさんガエルでも乙女ガエルでも、どっちでもいい。
『グレースの広告塔としての価値は計り知れんぞ。世界で一番有名な美人さんだからな。教会は大儲けだと思うぞ』
(嫌だ、シルバ、美人さんだなんて……)
「あのう……」
急にモジモジして顔を赤くした私を見て、お姉さまが怪訝な顔をし始めたので、質問は終わりにして、丁寧にお礼を言って、お帰り頂いた。
お土産に肉まんを包んだので、帰ってご家族で楽しんで頂ければ良いのだが。
ああ、聖女になる日が待ち遠しい。
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