第10話「還」

 部屋に戻ると、いつもよりがらんとしていた。私は部屋の真ん中に寝転がって天井を見つめた。たった一週間の関係だって、喪失感は一丁前にあるものだ。


――でも部屋は広くなったよ。

「え」


 私は上体を起こして、あたりを見回した。どこにも分身の姿はない。代わりに目に入ったのは机の上に置かれたスクールバッグで、思わずため息がこぼれ出た。


――文とは話す口実ができたね。

「え」


 まただ。私はあたりを見回した。やはり部屋にいるのは私だけだ。


「……なんだ、そっか」


 私は胸のあたりにそっと触れた。


「成功してたんだ」


 文に目撃されるリスクよりも、文の力を借りることの可能性を選んだあの瞬間、分身は姿を消した。


「おかえり。もう、退屈させないよ」


 私は胸に染み込ませるように言った。ほっと胸が温かくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おかえりハピネス 空木 種 @sorakitAne2020124

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ