第7話「失」
部屋に入ると、私の分身は床に大の字になって眠っていた。腹部を上下させながら、口を大きく開けてガーガーといびきをかいている。
「ねぇ」
私は彼女に馬乗りになった。
「んえ?」
彼女は細い目を眠そうに開けて、私の顔を見る。
「いま何時……帰ってくるの早くない?」
「そんなことよりさ……」
「うん?」
「なんで、バスケなんてやったの」
私の手は自然と彼女の胸ぐらを掴んでいた。彼女はなんの話かわからない、とぽかんとした表情を浮かべる。
「昼休み……明美たちとさ……」
「ああ、あれ。なんかまずかった?」
「あんた、バスケなんてできないでしょ……。私は、バスケなんてできないでしょ……」
「……確かに下手だけど、別に遊びだし……」
「あんたのせいで、みんなに嫌われたかもしれないんだよ!」
私は声を張り上げた。胸ぐらを引っ張って、彼女の上体をぐっと引き起こす。
「せっかく上手くやってきたのに! 余計なことすんなよ!」
私が怒鳴ってもなお、彼女の表情はぽかんとしていた。
「まってまって。嫌われたって何? なんか言われたの? 遊びだし、そんなピリついた空気じゃなかったよ。みんなボール回してくれたでしょ?」
「うるさい! もう消えてよ。余計なことしないでよ……」
目の当たりが熱くなって、涙が溢れ出てきた。ぽかんとしていた彼女の表情が、徐々に寂しそうなものになる。
「わかった。消えるよ」
彼女は私の手を掴み、ぐっと私を押し退けると、適当な上着を羽織って部屋を出て行った。
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