第5話「新」
一週間ぶりの学校は、色も匂いも明るさも、どことなく違和感があった。学校という空間に拒まれているような感覚が、廊下を進む私を容赦なく襲ってくる。
教室の前に行き着いて、扉を見上げた。扉の向こうからは雑多な声が聞こえてくる。扉に取り付けられた磨りガラス越しに、ぼやぼやとした影たちがうごめいているのが見える。こんなにも扉は背が高かっただろうか。私は扉に手をかけた。こんなにも扉は重かっただろうか。
ぐっと扉を引いた。ガラガラガラ、という音とともに現れる新世界。私は怖くて目を閉じた。
クラスメイトたちは、静まることも、私に声をかけてくることもなかった。私はほっとため息をついて、なるべく目立たぬように、机の間を縫うように歩きながら、自席にたどり着く。
「ねえ、理緒ちゃん」
「ヒッ」
自席に腰を下ろした瞬間、背後から声をかけられた。硬直した私の顔を、声を掛けてきた
「……大丈夫?」
「ああ、全然。おは、おはよ」
予想外の来訪者にしどろもどろしていると、文は持っていた雑誌を机の上にばばんと広げた。
雑誌の見出しには『マジでやばい心霊スポット7選』と白いゴシック体で記されている。文はそのうちのひとつを指差した。
「これ、今日の放課後行こうって言ってたやつ」
話の流れがまったく掴めなかった。
「昨日ネットで調べてみたんだけど、本当にやばいらしい。人の幸福を吸い取る霊がいて、実際に被害も出てるって……」
文は雑誌から私の顔に視線を転じた。じっと見つめてくる圧力に、私は視線を泳がせる。
「本当に、行く?」
文は真剣な眼差しで問うてきた。私は視線を文に戻し、ゆっくりと首を横に振った、
「よかったぁ」
文は肩をなで下ろした。
「さすがの私も、これは怖いと思ったんだよね。もっと難易度低いの見つけたら、そっち行こ。じゃあね」
手を振って、後ろの方の自席に戻っていく。私は文の後ろ姿を目で追った。
文があんなに喋るタイプだなんて知らなかった。教室移動のときいつもひとりで歩いている文は、このクラスでは私と同等かそれ以上に浮いていた。声を掛けようとしたこともあったが、「何を考えているのかわからない」で定評のある文は友人なんて求めていないだろうと邪推していた。
文は自席に戻ると心霊の雑誌をすばやく鞄の中にしまい、代わりにブックカバーをつけた文庫本を開いて読み始めた。
私は前に向き直って、頬杖をつく。
――いろんな人に会えるのも楽しいじゃん。
自分の声が、耳の奥で鳴った。
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