イレイサー事務所にて
第78話
「で、お前、なんか言うことないの?」
イレイサー事務所でツノダが難しい顔をしてハルキに尋ねる。
「何がっすか? 何もないすよ、もう報告書に書いたじゃないすか」
「いや、お前、あの後、大変だったんだよ。何がどうなってんのか、お前の報告書じゃ全然わかんないんだもん。上からもいろいろ聞かれちゃってさあ」
「だもん、禁止だってニッタに言われなかったすか? 気持ち悪いすよ、チョビヒゲの、だもん」
「うるさいよ。いや、だから、どうなってんだって。さっぱりわかんないんだよ」
「どこからだよ」
「そりゃお前、アキとユウジが襲われた事件からだよ」
「って、そっからかよ。いよいよ初っ端からじゃねえか。あの事件、ユウジが襲われた事件、あれ、ファンドリールの差し金、『アブソス』組織と共謀して、ユウジの『ギリメカラ』とニッタの『聖剣』を狙ってたの」
「ん? でもその前に五人殺害されてるよ?」
「あんたほんとに報告書読んでんのかよ。アキたちが上げてるだろ、そっちの報告書」
「いや、それがさあ。ユウジが入院してたろ、んだからアキが書いてんだけど、全然なんのことだかわかんないの。俺もう笑っちゃってさあ。ドカーンとかズバッとか書いてあんだよ、で、これが全然わかんなくてさあ。それをアキに言ったら殺すぞ、とか言われちゃって、もうほんと全然。あ、見る? 報告書?」
くすくすと笑いながらハルキに報告書を差し出す。
「見ねえよ。話が変わってるじゃねえか。もういいんすか?」
「ん? あ、そうそう、そうだよ。で? あの五人はなんで殺されたの?」
「ツノダさん、わかって言ってるだろ。あの五人、国家情報保安局とうちを繋ぐ連絡係だったんだろ?」
「うん。なんだ、お前、やっぱりわかってたのか」
「けっ、やっぱりじゃねえよ。まあ、あの段階で確信はなかったけどな。先にそこ潰して連携取れなくしようって考えだったんだろうな。ま、あの、何だっけ、付喪神? あの憑物の暴走もあったんだろうけどなあ。東方の刀に吸い寄せられたんだろうし。流行ってんのか? 連絡係が刀を持つの」
「ああ、なんか数か月前に配られたんだってさ。それに護身用とか観賞用とかいろいろあるらしいよ。殺された五人が刀の所有者ってのは間違いなかったからな。で、ユウジが狙われたのは?」
「配られた? それもまあ気にはなるけどな。ユウジが狙われたのは『ギリメカラ』だろうな。ニッタの聖剣もだけど多分、東方の鋼が使われてんじゃねえか? 確認のしようはねえけどな。あ、そういやあ、トクゾウじいさんの店はどうなったの?」
「ああ、それがな、店舗の補修費用とかうちが出さなきゃなんだけどさ、トクゾウさんに断られちゃってさあ。そんなもん受け取れるかぁ! って。仕方ないから誘っといたよ」
「ん? 何に?」
「そりゃお前、決まってるだろ、この後の鍋パーティだよ」
「なんで決まってんだよ。しかもこの後かよ」
「ハルキもニッタも来るって言ったら喜んでたぞお。いやあ楽しみだな、鍋パ!」
「ゲンナリだよ。なんで俺まで参加が決まってんだよ、行かないよ」
「まあそう言うなって。あ、あれだ、ミヤモトミヤさんも参加するって言ってたぞ。な、ハルキ!」
「なんすか?」
「来い、鍋パ!」
「いや、いかねえよ。てか、もういいんすか、話」
「ああ、忘れてた。で、ペイドルの件は?」
「ペイドルの町、あれ、ファンドリールが狙ってたのはまあそうなんだけどさ」
ハルキは珍しく口ごもる。
「なんだよハルキ、珍しいな、お前が口ごもるとか。あー、あれだろ、聖石の、な」
「ええ、確かにそれはありますよ。しかもペイドルの事件が結構込み入ってるんすよ」
「お? そう、それなんだよ。報告書をなんべん見てもよくわかんないんだよ。トーコとシゲルはまだ調査してるし、報告書見てもよくわからないんだよ。結局、あれはどういうことなの?」
「そこは本気でわかんねえみたいだな。ペイドルで起こった事件は要約すると、遺体消失、ファンドリールの進出の二つ。あとのはそれに付随する事件だよ」
「え? そうなの?」
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