第62話

 ハルキとニッタはファンドリール・ペイドル支社に到着すると玄関を開け受付にキョーカとの面会を申し出る。


「すみません、本日はもう終了しました。明日、改めてご連絡ください」


「いや、今すぐ会いたいんだけど?」


「ですから、申し訳ありませんが、本日は――」


「ん? 俺たちさあ、これでもさあ、あの、ほら」

 そう言ってイレイサーの証である銀の懐中時計を見せる。


「し、失礼いたしました。少々お待ちください」

 受付は慌てて内線電話をかけ、しばらくすると一人の男がやってきた。


 男はハルキたちを見ると深々と頭を下げ、ハルキたちも男に頭を下げ応接室へと案内される。


 ソファに向かい合って座ると、すぐにハルキが話し出す。


「なあ、あんた誰?」


「キョーカ社長の秘書をしております、マーチムと申します。以後、お見知りおきください」


「ん? ああ、そう。で、あんたがキョーカに伝えてくれるの?」


「はい」


「じゃあさ、頼むわ。お前の主人に言ってくれ。『聖石』は偽物だ、本物を返せってな」


「はい、かしこまりました」


「かしこまるの早えな、いいのか?」


「はい、私はお伝えするだけですので」


「あ、そう」


「んで? キョーカ社長は?」


「えっ? あの、キョーカ様は間もなくまいられるかと」

 ハルキはマーチムの話を聞いて眉間にシワを寄せてため息をつくとそのまま立ち上がる。


 ハルキの行動に驚いたニッタが


「ハルキさん、どこ行くんすか?!」


「帰るんだよ、ここにいてもしょうがねえ」


「えっ?! だってまだキョーカさん来てないじゃないっすか!」


「もうここにはいねえんだろ?」


「私からはなんとも」


「だろうなあ、邪魔したな。行くぞ、ニッタ」

 ハルキはニッタを引き連れてペイドル支社を出て帰路につく。


 ――――――


「くっそおお、また逃げられちまったなあ」

 ハルキが悔しそうに言う。


「あいつ、秘書って言ってたっすけど、何者だったんすかね? んー、なんか変な感じだったすね」


「そうだな。あいつもただ者じゃねえなあ。あー、めんどくせえなあ」


「まあまあ、ハルキさん」


「ん? なんだ?」


「次こそは捕まえましょう」


「おう、そうだな。って、待て、ニッタ」


「はい?」


「お前、もしかして」


「ハルキさん、そんな嫌そうな顔しないでくださいよ」


「いや、だってお前さあ、普通に考えてみろよ、わかるだろ、曲がいつもと違ったらさ」


「やっぱハルキさんはわかってくれると思ったんっすよ! これ、最近のやつにしたんすよ、曲!」


「ああ、そうだな、好きだからな、この曲。ありがとな、ルールまで変えさせてよ」


「はいっす!」


 ニッタは満面の笑みを返す。


「さて、と。んじゃあそろそろ帝都に戻るか」


 体調の戻らないニッタの代わりに運転するハルキはそう言って帝都へ向かう。

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