第41話

「ごめんね、アルネラさん。ショックなのはわかるけどもう少し付き合ってもらうよ。アルネラさん、あんたはさ、黒いローブってのは覚えてるんだよね?」


「え、ええ」


「そいつ、俺にオルサスって名乗ったんだよね」


 その時、わずかに空気を変えたトーコをハルキは横目で見ながら続ける。


「そのオルサスってやつの事は何か覚えてるかい?」


「いえ、それが、全く記憶がないのです。申し訳ありません」


「そっか。そいつは黒いローブで、ローブの端には銀の刺繍が施されててな、なんだか妙な杖を持って」


「ハルキさん。それ以上は!」

 トーコが思わず口にする。


「ん? なんだトーコ、これ以上喋っちゃなんかまずい事でもあんのか?」

「い、いえ、別にそういう訳ではないのですが」


「そ。じゃあ続けるぞ」

「いや、それはぁ」


「なんだよ、どっちだよ」

「ハルキさん、トーコさん、困ってんじゃないっすか」


「うるせえなぁ、お前は黙ってろ。なぁトーコ。シゲルも聞いてるんだろ? どうだ? このまま続けるか?」

 ハルキがそう言うと、シゲルも口を開く。


 ―――分かった。お前には後ほど情報は提供する。


 シゲルの声が部屋に響く。


 アルネラは驚いた表情のまま固まっている。


 ハルキは小さく息を吐くと再びアルネラの方を見る。


「よし、こっちの話は済んだ。あ、アルネラさん。あのな、デュアン君? 生きてると思うよ」

 ハルキはアルネラの方を向くとにっこりと笑いかけた。


「ほ、ほんとうですか!? デュアンは、デュアンは生きているのですか?!」


「ああ、だが急がないと間に合わないかもだぞ。アルネラさん、ファンドリールとの契約内容と遺体消失事件の資料を準備してくれるか?」


「は、はい! ああ、それでしたらユーシスに」


 そう言ってユーシスを呼ぶと、ファンドリールとの契約書と事件の書類を運び込ませる。

 ハルキはそれを受け取るとじっくりと見つめた後、アルネラへと返した。


 そしてゆっくりと立ち上がる。


「さて、それじゃあ行くとするかな」

 ハルキの言葉を聞いた途端、皆の顔色が変わる。


「ハルキさん、今からっすか?」


「おう、早い方がいいだろ?」


「そりゃまあ、そうですけど……」


「トーコ、シゲル。悪いが地下にはお前らだけで行ってくれないか? 俺達はちょっと用事が出来たんでな、ちょっくらデュアン君を探し出してくるわ」


 ハルキがそう言い放つと、アルネラは慌ててハルキの前に立つ。


 その顔は不安げで、目は涙ぐんでいた。


「お、お願いします! どうか、息子を助けてください!」


「ああ、任せておけ。必ず助ける。だから安心しろ。な?」


「はい、はい。ありがとうございます!」

 ハルキは優しく微笑む。


 その笑顔を見て、アルネラは少し落ち着きを取り戻した。

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