第8話

 ―――二週間後、イレイサー事務所


「で、結局あの玉箸の憑き者って何だったんすか?」

「知るわけないだろ。アキに聞けよアキに」


「どうなんっすか? アキさん!」


「ふむ、話せる範囲でしか話せないぞ。あれはおそらく付喪神だったって話だよ」


「ツクモガミぃ? また聞いたことねえ言葉が出てきたぞ。なんだそりゃ?」


「お前も知らないのか、ハルキ。付喪神とは物に魂が宿った物のことだ。その力は様々だが、中には害を成す物もある。本来、玉箸は人を殺すための道具ではなかったはずなんだがな、何か別の力が加わっていたらしいよ」

 呆れたようにアキが説明する。


「ふーん、そうなんすねえ。でも、なんであんなにたくさんの人が狙われたんっすか?」


「ああ、後でわかった事だが、襲われた五人は東方の刀を所有する人物だった、合法、非合法を問わずな。玉箸の事がなければ見逃されてたはずだよ」


「ん? じゃあなんであの爺さんは襲われたんだ? そんなもん店にはなかったぞ」


「ああ、これはおそらくなんだが、ハルキの『オーシャン・スティール』やユウジの『ギリメカラ』に使われている特殊な合金が引き寄せたんじゃないかって話だな」


「じゃあ、トクゾウさんが襲われたのってハルキさんのせいじゃないっすか!!」


「まあそうなるわね」


「ハルキさん、やっぱりトクゾウさんに謝りに行ったほうがいいっすよ!」


「なんでそうなるんだよ。いや、あれはたぶん聖剣の…… いや、うーん、そうか。そうだ、あれ、ツノダさんが持っていけって言ったんだよな? ツノダさん! 黙ってないで何とか言ってくださいよ。あんたディレクターでしょ? うまく説明してくださいよ」


「ま、待て、俺は魔銃を持って行ったらいいよって言っただけだぞ。知らん、俺は何も知らんからな」


「ほら。な、これだよ」


「本当にいつもそうだよ。プロデューサー、ユウジの件は絶対に忘れないからね!」


「いやそれはごめんて」


「ん? なんだ?」


「このチョビヒゲ、私にユウジが無事だったこと知らせなかったんだよ!」


「いや、それは、だってアキ、お前が話を最後まで聞かずに走って行っちゃったんだよ? お前らが聞かないんだもん、俺は言おうとしてたもん。悪くないもん!」


「げ! まさかの『だもん』っすよ、ハルキさん! ね、わかったでしょ? 三十過ぎて『だもん』使ったらこうなるんっすよ!」


「わかった。よ~くわかった、ごめんな、これからは本当に気をつける事にする」

 言い訳をするツノダを見てハルキが言う。


 そんな会話を見ながらアキは首を横に振ったが、その口元には笑みが浮かんでいた。

 

「お前ら二人のおかげで命拾いしたよ。ありがとう」


「ん? なんか言ったか?」


「いや、何も。で、プロデューサー、例の件は?」


「ああ、その件はこいつらに任せようと思ってるんだ」


「ん? なんなんすか?」


「まあ、この件が片付いてからだ。まずは今の任務を終結させてくれ」


「へいへい、おい、ニッタ! 行くぞ!」

 そう言って二人は事務所を後にした。




「ツノダさん。ハルキには話してないのかい?」


「ああ、今話すと暴走するだろ?」


「間違いなくね。まあもう気づいてると思うけどねえ」


「そうだよなあ。今回の事件、殺られた五人は実は国家情報保安局とイレイサーを繋ぐ情報員。で、イレイサーのユウジ。敵はこっちにまで手を出してきたってことだ」


「ああ。私はユウジが復帰次第この事件を追うよ」


「トーコとシゲルのバディにも依頼はしているが、そうしてくれ。ハルキにはこの事件からは離れてもらう。ちょうどルスコで依頼があることだしな」


そうか、と言ったあとアキは、ハルキ気をつけろよと呟いた。

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