第32話 帰るまでが遠足です

 シロウが消えると荷物をまとめて歩き出すことにした。どこを目指して戻れば良いのか分からないが、さっきからシロウがチラチラと見ていた方に何かあると思っている。


 その方向にある木が気になり、近づいてみると、人間の足が飛び出していた。動かないため、一瞬死体かと思ったが、顔を見たらすぐに誰かわかった。


「マリア!? フローラ!?」


 なぜか二人は地面に倒れており、マリアは額に怪我をしていた。何かに襲われた可能性を考慮すると、早く起きて立ち去るべきだ。


 僕はすぐに体を揺すり、声をかけると少しずつ目が開いていく。目の焦点が合うと、マリアは驚いていた。


「あああぁぁぁーー!!!」


 急に起き上がり僕の顔を見ると発狂していた。



「あの男はどこよ! もっと先を見せなさいよ!」


 急に捲し立てられ、訳がわからず固まってしまう。何のことを言っているのだろうか。


 それに気づいたマリアは一度息を吐いてから落ち着き、カーテシーをする。


 額から血が流れていることは気にしないのだろうか。


「あなたが1人でどこかに行くから探したじゃないの!」


「そうなの?」


「そうよ! クラウスもレオンもあなたの相手が出来ないから私が面倒見て差し上げようかと――」


「ありがとう!」


 そんなに心配してくれていたとは思いもしなかった。僕は手を握り、マリアを見つめる。


 やはりヒロインだから血が流れていてもキラキラしている。


「ちょっと離れなさいよ! それは他の男らにやってちょうだい!」


「他の男?」


「いや、なんともないわ。とりあえず先生達が心配しているから戻りましょう」


「あっ、まだフローラさんが倒れています。それに治療をさせてください」


 僕が二人に回復魔法を唱えると、フローラも唸り声を上げて目を覚ました。


生物なまものはどこ行ったの!?」


花子はなこ落ち着きなさい?」


「はぁ!?」


 マリアに頬を掴まれたフローラはハッとした表情をしている。そういえば、たまに二人でいる時はマリアはフローラのことを花子・・と呼んでいる。


 いつか僕も呼んでいいか聞いてみようと思う。


「私達の顔に何かついているかしら?」


 僕が二人を見つめていたことがバレてしまった。キラキラしていて僕には憧れの存在だ。


「二人が無事でよかった!」


「それはこっちのセリフよ!」

 

 僕は怒られてしまった。怒っててもキラキラしている二人に僕は笑みが止まらなかった。


「これを攻略者に向けてもらえばいいのにね」


「破壊力が抜群ですわね」





 僕達が湖に戻ると少し騒がしくなっていた。騎士達や担任のウィン先生も駆け寄りホッとしていた。


 そんなに迷惑をかけるとは思ってもいなかった。そんな中、すぐに抱きついた人がいた。


「お前……本当に心配したんだからな!」


 クラウスは僕を強く抱きしめる。


「ごめんね」


「もう俺から一生離れるなよ。俺がお前を守るから……」


「それは俺の役割だから君は離れてください」


 遅れてきたタンジェはクラウスを必死に離そう手を間に入れていた。


「ぐふふ、本当に今日はついてるわね!」


「やはり推しが必死の姿は最高よ!」


 僕達はその後も遠足を楽しみつつ学園に戻っていった。

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