第29話 新たな攻略対象者
降り続く雨に顔を上げるとどうやら、僕の真上にしか降っていないようだ。しかも、空は真っ白でふかふかしていた。
「えっ……」
何か存在が分かると、驚きのあまりそのまま腰を抜かしてしまった。僕の一番好きな存在。本当に異世界にいるとは思いもしなかった。
「腹減ったぞ!」
「えっ?」
「だから我は腹が減ったんだ!」
雨だと思っていたものは、お腹を空かして、よだれが垂れ出ている大きな狼だった。
「早くその飯をワシにくれんか……」
狼の涎が滝のように流れ、伏せの状態で尻尾を振っていた。側から見たら待てをされている状態だろう。
「か……可愛いー!」
僕は狼の元に駆け寄り、顔を体に埋め込みもふもふする。全く恐怖心を抱かないのは、ずっと家に閉じ込められていた影響なのだろうか。
「おっ、おい! やめんか!」
「ご飯が食べたいならもふもふさせて……ね?」
言葉が通じる狼なら問題ないと思い、狼の体を堪能する。
そこまでしてお弁当が気になっていたのか、狼はその場で動かず、じっとしていた。
――20分後
そろそろお腹も空いてきた。手を止めてお弁当を食べる準備をすると、狼はチラチラとこちらを見ていた。
「えっ……もう終わりか?」
「えっ、まだいいの?」
「我が嫌だと言うまでやらんか!」
思ったよりも狼は撫でられて喜んでいた。なんやかんや異世界の狼でも犬と変わらないらしい。
そんな中、地鳴りに近い音が耳元から鳴っている。
「お腹空いたの?」
「我も忘れておったわ」
狼も撫でられて心地良くて忘れていた。お互いに似ているのかどこか抜けている。
「じゃあ、食べようか」
狼のお腹の間に座ってお弁当箱を開けた。視線を感じると、狼の目は完璧に獲物を狙う目になっていた。
「唐揚げなら食べれる……かな?」
弁当箱から唐揚げを一つ取り出し、食べやすいように狼の目の前に差し出した。狼の姿では歯よりも唐揚げは小さい。
「この姿じゃすぐ終わってしまうな」
狼は何か考えて、ぼそっと呟いた途端に体から煙が出てきた。次の瞬間狼を中心に小さく爆発する。
「うぇっ!?」
驚き一瞬目を閉じる。すると、白い毛はなくなり、人間の腕の中に抱きかかえられていた。
「なぜそんなに驚いておる?」
「えっ? だってさっきまで狼だったよ?」
急に出てきた人間に驚いていたが、それよりも狼男もこの世界の人物なのかキラキラと輝いていた。
「わしをそんなそこらの狼と一緒にしてもらっても困るぞ! わしは高位の魔物だぞ? むしろ聖獣じゃ!」
「魔物……聖獣ってなに?」
今まで王都外に出たことなかったため、魔物の存在は知っていたが、高位の存在は知らない。
基本的に魔物に知識が芽生え、最高位が聖獣や魔王などと呼ばれている。
獣の形をしているものが聖獣、人型の形をしているものが魔王と呼ばれている。ただ、聖獣まで進化していれば人化が使えるものも珍しくないらしい。
「じゃあ、お主の飯をもらおうか」
狼男はそのまま僕を抱きしめた形で、手を握り唐揚げを口に入れた。
「おー、中々美味やな! この黄色のやつもいいか?」
「卵焼き?」
お弁当箱に入っている卵焼きに指を差していた。卵焼きを箸で摘み口の前に持っていく。
狼だからか尻尾を左右に動かして待っていた。
「あーん!」
大きく口を開けると卵焼きを一口で食べた。
「おー、これが卵焼きか! 卵を焼くだけでこんなにも上手いのか」
卵焼きを食べ終わるとそのまま考え込んでしまった。
「狼さん?」
「飯も上手くて、モフりのテクニックもある。魔力の波長も合うし……よし、決めたぞ!」
どこか嫌な予感はしたが既に遅かった。
狼男は僕の体を押し倒し、そのまま被さる。
「俺と契約しよう!」
「えっ……えー!!」
狼男は僕の唇にそっと自身の唇を重ねた。
一方カイトを探していた攻略者達は……全員嫌な予感を感じていた。
「マリア様これって……」
「ええ、私達を呼んでいるわ!」
その反面、主人公と悪役令嬢の2人だけは攻略者達とは異なる貴腐人レーダーに反応していた。
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