第28話 BLだよ? 全員集合!

 しばらく歩くと辺りは木ばかりで、風が僕の髪をなびかせる。気づいたときには森の入り口に着いていた。


 森の範囲は広く、大きな木や草木が生えており、中から鳥の鳴き声が……いや、女性の声が聞こえていた。


「はぁ.……はぁ……親子で1人の男を取り合うのもいいわ。大人の魅力に勝てない子は己の体力と性欲で……。ぎゃはは、これも良いわね! ほんとカイトの周りは最高だわ」


 疲労による息切れではなく、後ろにいるマリアとフローラの変な声が溢れ出ていた。


 仲良くなって気づいたが、どうやら二人だけの世界に陥ることが度々あった。だが、気づいているのは僕だけらしい。


 そして、カイト達を待つように見知った顔の人達が待っていた。


「あれ?」


「なんで兄さんがいるの?」


 そこには兄であるタンジェがいた。その隣にレオンとレインもいる。


「ふふふ、実は俺も遠足の護衛課題に選ばれたんだ」


 タンジェはカイトの頬を優しく撫でて説明していた。だから途中から遠足に行くのを認めたのだと気づく。


「じゃあ、今から森に入ります。先輩方も護衛課題として参加しますが、皆さん足元に注意してください」


 ウィンの声に待っていた三人達以外も各々バラバラになっていく。


「魔物も出てくる可能性もあるため騎士団からは離れないように気をつけてください」


「兄さん達の護衛は僕達?」


「ああ、ここにいるメンバーがカイト達の班の護衛になるね」


 事前にクラスは数半に分かれている。こんなに運良く護衛で一緒になるとは思いもしなかった。


 ウィン先生の指示のもと、僕達は森の中に入って行った。


 森の中は緑の香りが広がり、鳥のさえずりや水が流れる音が聞こえる。


「みんなは森にきたことある?」


 隣にいたクラウスとマリアに声をかける。


「俺は魔物退治に小さい頃に連れていかれたぐらいかな?」


「私も小さい頃に遊びに来たぐらいだけど、護衛を連れて行かないと危ないから、中々行けないわね」


 クラウスとマリアは入学前に森に行ったことがあったようだ。フローラは僕と同じで最近王都に来たばかりで、森の存在も知らなかったらしい。


「やっぱみんなも行ったことあるんだね。実は今日のためにお弁当を作って来たんだ!」


 僕はお弁当が入った鞄を二人に見せつけていた。中には四人で食べる量を遥かに超えていたが、商会の息子である僕は重さを感じさせない魔法のリュックにたくさん荷物を詰めてきた。


 朝から早起きしてお弁当作りをしてきたのだ。これはなぜかタンジェの提案だった。


「あー、可愛い……」


 そんな姿を見たクラウスはボソッと呟いていた。それをフローラは聞き逃していなかった。


「ひひひ、もうクラウスも時間の問題だわ」


 フローラは薄気味悪い笑い方をしていた。しかし、その奥には周りを警戒しながらこちらを見ていたタンジェがいた。


 それを見て貴腐人達の妄想はさらに広がっている。


 その時急に先頭が立ち止まった。どうやら目的地に着いたようだ。


 そのまま前に詰めて行くと目の前には大きな湖が広がっていた。


「わぁー、二人ともすごいよ!」


 僕のテンションは絶好調まで上がっていた。湖って聞いていたが、目の前に見えるのは海かと思ってしまうほど大きな湖なのだ。


「では、今から自由時間にする。あまり遠くには行くなよー!」


 ウィンの声に誰よりも僕は駆けだした。今まで異世界に来て、こんなにすごいと思う湖は見たことなかったのだ。


「おい、カイト気をつけろよ」


「はーい!」


 ウィンに注意されたが僕はすでに聞いていなかった。


 その後すぐに僕に声をかけようとするが、既にみんなからは見えない位置まで行っていた。


 僕は転生後初の王都より外に出たため、まわりが目に入っていなかった。さっきまで湖の近くにいたはずが、いつの間にかまた森の中にいた。


「ここどこだ?」


 気づいた時には迷子になっていた。辺りは森のため今どこにいるのかわからない。


 しばらく歩いてもわからず、彷徨っているとどこからか大きくお腹が鳴る音が聞こえてきた。

 

 自分のお腹がなったと思い、近場にあった岩に腰掛ける。


 朝からずっとお弁当を作っていたため、僕のお腹が鳴ったのだろう。確かにずっと歩いていたから、お腹も空いている。


 やはりモブだからたくさん作っても、こういう運命になるのだろうと作ったことを後悔しながら、一人で昼食を食べることにした。


 鞄からお弁当を出すと、静まった森の中からは草が揺れる音が聞こえてくる。だが、お弁当に集中する僕は全く気づいていない。


「いただきます!」


 お弁当は唐揚げ、卵焼き、ソーセージなど転生前に食べていた物を中心に箱に詰め、紙には自身で作ったパンで包んでいる。


 いざ食べようとしたら上から雨が降ってきた。どうやら天気が悪くなったのだろう。

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