第25話 次のイベントは?
お茶会をした次の日、少し恥ずかしくなりながら教室に向かう。
「兄さんここまでで大丈夫だよ」
「いや、教室までは着いていくよ」
なぜかお茶会から帰ってきてから、タンジェとの距離感が近くなったような気がした。
はい、物理的な距離感の方です。
教室にはすでにたくさん登校しており、いつものメンバーは集まって話していた。
「みんなおは――」
「カイト行ってらっしゃい!」
教室に入ろうとした瞬間にタンジェは後ろから僕を抱きついた。今までこんなことをしてこなかったが、そんなにお茶会の仲間外れにされたことが寂しかったのだろうか。
「兄さんも頑張ってね!」
僕の肩の上に置いてあるタンジェの頭を優しく撫でると、三人は各々違う表情でこちらを見ていた。マリアはなぜかカーテシーを始め、フローラは満面な笑みでこちらを見ていた。
一方、昨日恥ずかしい思いをしたクラウスはなぜか睨んでいた。
タンジェから解放された僕は急いで三人の元に駆け寄る。
「おはよう!」
「朝からご褒……ゴボッ! ちょっと咳が出ていましたわ」
「美味しい朝食でした」
「おはよう!」
クラウス以外はどこか変わった挨拶だった。フローラなんて、今頃朝食の話題をしている。
「昨日はぼーっとしてすみません」
「いえいえ、私達のことは気にしなくて大丈夫ですわ」
「そうですよ。私も幸せでしたし」
あんな姿を見て、何も気にしていない女性二人には感謝しかない。
「あー、俺も恥ずかしい思いさせてごめんな。カイトが可愛かったからつい触れてしまった」
そう言って、今度は僕の手を握っていた。クラウスは言葉より先に行動してしまうのだろう。
「いえ、嫌ではないので大丈夫ですよ」
「ぐふっ!?」
今度は三人とも同じ反応をしていた。それにしても、リアクションが大きいのは乙女ゲームの世界だからだろうか。
「ごめん」
クラウスはすぐに立ち上がると、腰が引けた状態で教室から出ていった。昨日作ったクッキーが腹痛の原因ではないかと心配になってしまう。
「昨日のクッキーでお腹壊しているのかな?」
「ふふふ、それはないから大丈夫ですよ」
「私達は元気ですからね」
僕が心配していたことは関係ないらしい。
「そういえば、今度遠足があるのは知っているかしら?」
マリアはすぐに気を利かせて話を変えた。マリアの優しさに僕の心も少し温かくなる。
「遠足ってどこに行くの?」
遠足といえば、前世では近場の公園や遊園地など様々なところに行った覚えがある。乙女ゲームにも遠足があるのかとワクワクしてしまう。
それに気づいた二人も微笑んでいた。
「王都裏にある近くの森に湖があって、そこに行くって話よ。湖がすごく澄んでいて、鳥や魚がたくさんいるところらしいわ」
マリアはきっとレオンから話を聞いているのだろう。話を聞いただけで気持ちがそわそわとしてきた。
「本当? 僕森に行ったことないから楽しみだな」
今まで外に出る機会もなく、乙女ゲームをプレイしたこともないため、この世界のことは何も知らない。
これからやっと色々な世界に触れることができるのだ。
「ぐふふ、あのイベントですか」
「イベント?」
フローラも何かを知っているようだった。
「実は魔物もいるから騎士団が付き添いで来てくださるらしいのよ。フローラは騎士団が好きなんですよ」
女性のフローラからしたら、みんなを守る騎士はかっこいいのだろう。確かに警察官や消防士って女性達が好きな職業でもあったから、この世界でもそれは変わらないのだろう。
「僕も初めて騎士団を見るから楽しみだな!」
「私も騎士団にぐちょぐちょにされるのを楽しみにしているわ」
「ぐちょぐちょ?」
「当日は晴れていると良いですね」
どうやら僕の聞き間違いだったのだろう。フローラを見るといつも通りヒロインらしい顔で微笑んでいた。
この時はまだ誰も予想をしていなかった、はちゃめちゃな攻略者大集合の遠足になるとは――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます