第24話 お茶会からの帰宅 ※一部タンジェ視点

 あれからお茶会の記憶はなく、マリアとフローラは興奮したままいつのまにか終わった。


 僕はなぜかレオンの好意でレインに寮まで送ってもらっていた。


「大丈夫だったか?」


「あっ……ちょっと恥ずかしかったけど大丈夫です」


 クラウスの急な行動のことを言っているのだろう。その後、クラウスはすぐに謝ってくれた。きっと優しい彼はクッキーのお礼をしたかったのだろう。


 貴族って本でもすぐに手の甲とかにキスするイメージがある。乙女ゲームの世界であれば、それぐらいは当たり前なんだろう。


 それを恥ずかしがった僕はすでに恥ずかしい。


「あー、タンジェに説明するのが大変だな」


 レインは何か呟いていたが、僕はそのまま連れられるように寮に戻った。





「あっ、兄さん!」


 寮の前でタンジェはなぜか立っていた。風に当たりにでも来たのだろうか。


「おかえり!」


 手を広げて待っているタンジェの元へ走ると、そのまま受け止めてくれた。すっぽりと入る隙間に居心地の良さを感じる。


 一時期よりスキンシップが多くなったが、学園に通うようになってから、毎日ハグをするのが日課になった。


 デイリークエストの項目に、ハグが基本的に含まれているのが理由の一つでもある。


「兄さん冷たいけど……?」


「ああ、カイトが帰ってくるまで待ってたんだ」


 服もどこか冷えており、過保護なタンジェは長い時間待っていたのだろう。連絡手段があれば、そんなに待たせずに済んだと思うと、携帯電話がある前世は便利な世界だった。


「じゃあ、早く寮に入ろうか」


「俺はレインに話があるから、カイトは先に入ってて。また、お茶会の話を聞かせてね」


 タンジェは僕の額に軽くキスをすると、優しく微笑んだ。僕はそのまま寮に入ってタンジェを待つことにした。





 にこやかな顔で帰ってきたカイトは、よほどお茶会が楽しかったのだろう。だから気にしないようにしていたが、ハグをしたら違う男の臭いが混ざっていた。


 一緒にレインが来たのも、何かあったのだろうとすぐに感じた。そもそもレインは皇太子であるレオンの側付きである。


 その側付きが離れることは滅多にない。他にも側付きがいるのは知っているが、基本的に学園内の担当はレインのはず。


「お前が来たのはカイトから他の男の匂いがするからなのか?」


 俺の一言にレインは驚きの表情をしていた。


 レインは以前俺と寮が同室だった。だから、レインの匂いはわかっている。


「レインの匂いじゃないってことは、お茶会で何かが起きたということだ」


「本当に商人にしておくには勿体ない頭の回転が早いな」


 レインは笑っているが、俺としては内心イライラしている。

 

 最近甘えることが増えてきたカイトに、さらに愛おしさを感じる中、他の男が触れたのだ。


「あー、デアーグ家が少し暴走してな」


「デアーグ家? あー、最近カイトの近くにいるツンツン頭か」


 カイトに男友達ができたと紹介された男がデアーグ家のクラウスだった。デアーグ家は騎士家系でも有名だが、目の前にいるマートン家とのライバルとしても有名だ。


 炎のデアーグ家と氷のマートン家とも言われており、お互い常に歪み合っている。この二つの家系が存在しているからこそ王族の安全が守られている。


 デアーグ家は情熱的で熱血だと言われている。簡単に言えば脳筋・・っていうことだ。


「まぁ、クラウスもまだ若いしな。弟が取られないようにお兄ちゃんは頑張れよ!」


「俺はお前も警戒しているぞ」


「ははは、それなら早く殿下の側付きにでもなるんだな」


 そう言ってレインは立ち去った。きっとレオンの婚約者であるマリアと仲が良いカイトはレオンと関わることが増えるのだろう。


 俺は元々レオンから側付きにならないかと話を貰っていた。側付きになれば、卒業後は城で働くことになる。


 カイトと共にマーブル商会をすると昔から決めている。だからその誘いは断っていた。でも今後カイトの進路次第で俺の道は決まるだろう。


 カイトは誰にも渡さない。


 俺は改めてカイトを守ると決意した。

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