第23話 クラウスのアプローチ

 せっかくのお茶会なのに全く手をつけていないクラウスが目に入る。確かに甘いものが苦手とは言っていたが、全く食べないとは思いもしなかった。


「クラウス全然クッキー食べてないじゃん。せっかく作ったのに……」


 クラウスの目の前にあるクッキーはそのまま残っている。


「早く食べなさいよ!」


 マリアはクラウスに手で合図をしているが、それでもクラウスは戸惑っていた。


「いやー、甘くないって言っても、今まで食べたクッキーって基本甘いからな……」


 想像してたよりも甘いものが苦手だったようだ。この世界のお菓子って海外の味に似ているため、確かに甘味にインパクトがある。


「じゃあ、1枚だけ食べて? クラウスのために作ったんだからね?」


 ハーブベースのクッキーを一枚取りクラウスの口の前に持っていく。流石に朝早くから作ったため、一枚でも食べてほしいという一心だ。


 それでダメなら仕方ない。


 女性二人は呆れたように早く食べろと手を振っている。実は垂れた唾を必死に拭っていただけらしいが……。


「はい、クラウス! あーん!」


「わかったよ」


 渋々諦めてクッキーを口にした。内心はなんて言われるかわからず、心臓が飛び出そうなほどドキドキとしていた。


 本当に口に合うのか、わからないものを強制的に食べさせているのだ。


「ん?」


 一口一口と噛んでいくとクラウスの表情は驚きに満ちていた。


「カイト……お前天才だな!」


 どうやらハーブベースのクッキーはクラウスも食べられるようだ。


「言ったでしょ? ほら、もう一枚」


 つい嬉しさのあまりそのままクラウスに食べさせていると、近くからは奈落の底から呻くような引く声で笑っていた。


「ぐふふ、マリアさん……」


「ええ、フローラさん……これは私達のご褒美かしらね。涎が止まらないですわ」


「私もです。もう胸がいっぱいですわ」


 表情はだんだん仏のような顔になり、天に召されたのだろう。


 その後もクッキーを食べさせ続けていると、クラウスはそのまま僕の指をペロリと舐めた。まさかの行動に僕は固まってしまった。


「ぎいゃー!!」


 それを見ていたマリア達は再び何かを発していた。本当にいつ見ても楽しそうだ。僕も見ていて、つい楽しくなってしまう。


 だが、そんな僕のことをずっと見ている人がいた。


「カイト顔が赤くなって可愛いね」


 クラウスは僕の手の甲を待って、軽く口づけをする。恥ずかしくてわざと目を逸らしていたのに……。


 同性同士の恋愛ができるってこういうことを言うのだろう。


「いや……」


「いや? でも俺のためにクッキー作って来てくれたんでしょ?」


 クラウスの言葉に僕は頷く。確かにクラウスのために作ったのは間違いない。


 普段が茶色の髪が、どこか赤く燃えているような気がした。瞳の奥も熱がこもっており、どこか目が離せない。


「ぐふふふ、ついにクラウスが動いたわね」


「ちょ、レオン殿下は何をやってるんですか!」


「えっ? 私ですか?」


 所々で話し声が聞こえていたが、僕の耳には届かなかった。だが、そんな様子を誰かが止めた。


「はーい、お前はここまでにしておこうかな? これ以上やると俺がタンジェに殺される」


 その場を止めたのはレインだった。お茶会の中で唯一、少し離れて見ていた。


「おい、なんで止めるんだ!」


「いやいや、お前周りを見てみろよ」


 僕が隣を見るとマリア達がこちらを見ていた。改めて恥ずかしくなり、僕はテーブルに顔を伏せた。





「レインさん絶対今嫉妬して止めましたよね?」


「ふふふ、止めた時はイラッとしましたが、考えてみれば恋も因縁のお二人ですもんね」


「クラウス推しの私にしては、ぐちょぐちょしてくれる殿方が増えて嬉しいわ」


「ぎゅふふふふ」


「それにしても二人はいつも何話しているんだ?」


「いえいえ、レオン殿下は気にしなくていいですわ」


「そうですわ!」


 マリアはすぐに立ち上がりカーテシーを。


 フローラは満面の笑みで微笑んでいた。

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