第22話 因縁の相手

 お茶会は順調に進み、ついに婚約者の話題になった。恋学ではマリアとレオンが婚約関係だが、ルートによってはフローラが横取りする形になってしまう。


「そういえば、殿下とマリアは婚約者なんだよな?」


「一応幼少期からの決まりではそうなっていますわね。親同士が決めた許婚ですからね」


 クラウスは二人に確認した。やはりその婚約者設定はみんなが知っている事実らしい。


 基本的に王族は貴族の地位が高い女性から婚約者として決められることが多い。そのため、年齢が近く自身と関係が深い貴族ということでマリアが選ばれた。


「じゃあ、僕はあまりマリアと親しくしない方が良いのかな……?」


 せっかくの友達が出来たと思っていたが、婚約関係の話を聞き少し寂しくなってしまった。前世でも恋人関係で友達が離れることはあった。


 なぜか、男友達の彼女から嫉妬されることもあったが、そこまで束縛する女性もいるのだと勉強になった。


「むしろカイトの場合は殿下の方じゃないか?」


「えっ?」


 クラウスが何を言っているのか、意味がわからなかった。


「だって、マリアとカイトよりは殿下とカイトの方が周りは心配になるだろ?」


「ん?」


 クラウスに詳しく言われても、僕はイマイチピンとしていなかった。


「私のことは気にしなくてもいいわよ。むしろレオン様と仲良くしてしなさい! わかったわね! 仲良くするのよ!」


 変な空気にならないように、マリアは会話を一刀両断した。さすがお茶会の主催者だ。


「クラウスさんは婚約者はいないんですか?」


 今度はフローラがクラウスに話を振った。


「俺のとこは騎士家系だから基本的には許嫁はいないな。ただマートン家とは被るなとは言われている」


「マートン家?」


「あー、それは俺のことですね」


 レオンの側付きであるレインは僕の方を見て手を振っていた。マートン家は兄の友達であるレインだった。


「親父の世代も、祖父の世代もマートン家と恋敵になることが多くてな……。だからレインには注意しているよ」


 クラウスはレインを睨みつけている。一方、その相手であるレインは気にしていないようだ。


「なら、レインさんとお付き合いしたらどうなんですか?」


「確かにそうなったら喧嘩することは無くなりそうですね」


 フローラはこの際だからと因縁同士の家系をくっつけることにしたのだろう。でも、男同士の恋愛は成立するのだろうか。


「はぁーん!?」

「なに!?」


 クラウスは飲んでいた紅茶を噴き出し、二人は口を揃えて反応した。


「ちょっとお下ひひひひんですわ」


 マリアはすぐにクラウスにハンカチを渡そうと差し出していたが、どこか口角は上がりニヤニヤとしている。


「おっ、助かーー」

「良いんじゃない? クラウスもレインさんもカッコいいんだし」


 特に何も考えていなかった僕が発言すると、視線は僕に集まった。知らぬ間にモブが目立ってしまった。


「いやいや、絶対無理でしょ!」


「どう頑張ってもそれはないからな?」


「それはこっちのセリフだ。こんな可愛げがないやつ俺も無理だ」


 二人はお互いに啀み合っていた。喧嘩するほど仲が良いって昔から聞いていたが、こういうことを言うのだろう。


「でも、クラウスもレインさんも同性だけど大丈夫なの?」


 そこで初めて同性同士での恋愛が認知されているのか気になった。


「それは大丈夫ですわ」


 マリアは期待の眼差しを向けて答えた。この時、恋学の世界で同性愛が認知されていることを知った。乙女ゲームの世界と現実はどこか違うのかもしれない。


 魔法がある世界のため、異性同士よりは子供が出来にくいという条件はあるが、同性同士の妊娠も可能らしい。


「そっか……僕みたいなモブには婚約者が出来ないから関係ないけどね」


 聞いてもブサイクなモブには無関係ない。そう思っていたが、婚約者がいない僕を見てなぜかみんな微笑んでいた。

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