第13話 -イベント1- 食堂にて

 学園生活に慣れた頃、学園での昼食が始まる。今までは新学年のため授業は午前中だけだった。


 食堂の場所がわからず、先に教室から一人で食堂に向かっていると、兄のタンジェを見つけた。


「あっ、兄さん!」


「カイト一人なのか? 友達は出来たか?」


「そういう兄さんも1人じゃんか」


 頬を膨らませながら拗ねたようにそっぽを向く。そんな僕を見てタンジェは体を震わせていた。


「ああ、今日も罪な弟だ」


 タンジェは僕の頭に手を置くと、優しく撫でる。こうやってやれば撫でてくれると僕は知っている。


「食堂に一緒に来てもらってもいい?」


「ああ、一緒に行こうか」


 僕はタンジェの腕を掴むとそのまま食堂に向かって引っ張った。


「くくく、食堂は反対方向だよ」


 どうやら僕は食堂とは反対方向へ歩いていたらしい。タンジェはくすくすと笑いながら、食堂まで案内してくれた。


 食堂に着くとお盆に食事を乗せる。学園の食堂はどこか異世界感はなく、定食屋のように自分で選択するような仕組みだった。


 先に席を探しに行ったタンジェを追いかけて探す。だが、どこにもおらず僕は何かに足を引っ掛けてしまう。


 お盆を持っているため、姿勢を戻せずそのまま倒れ……ることはなかった。


「カイト大丈夫?」

「お怪我はありませんか?」


 倒れそうになった僕を支えたのはクラウスとレオンだった。


 そんな僕達を遠くからマリアとフローラが見ていた。


「マリアさんこれは……」


「ええ、今日も最高の3Pが見えたわよ」


「それにしてもここは花子フローラが倒れて攻略対象と知り合うシーンよね?」


「BLルートだと私達のイベントも取られてしまうのね」


「それでも私達にとっては……」


「ご褒美よね」


 僕には聞こえないが、きっと心配しているのだろう。ずっと僕達を見て微笑んでいた。


「カイトどうしたんだ? 大丈夫か?」


 タンジェは僕を見つけると駆けつけてきた。一向に来ない僕を心配して探しに来たのだろう。


「お二人とも感謝します」


 すぐにレオンとクラウスの存在に気づきタンジェは頭を下げた。


「ちょっとフローラさん」


「ええ、マリアさん」


「ここで兄×弟の追撃ですわね。ライバルのレオンさんとクラウスくんが入っての展開」


「弟思いの兄って……あー、もう今日はこれだけで満足ですわ」


「私もよ!!」


 令嬢二人は小さく握り拳を作っていた。やはりモブの僕がこんなに目立つことが嫌なのだろう。二人ともちゃんとしたヒロインで、目の前にいる男達は攻略対象者だ。


 僕はお盆を机に置くと二人に近づいた。


「ご迷惑をおかけしてすみません」


 モブである僕が目立ったことを二人に謝る。だが、二人は特に怒っている様子はなかった。


「別に謝らなくていいのですよ。ねぇ、フローラ嬢?」


「ええ、そうよ! このまま皆さんに揉みくちゃにされなさい」


 それはモブである僕が目立つみんなと友達になっても良いということなんだろう。一人の時間が長かった僕には友達ができただけで嬉しかった。


「僕もみなさんと友達になれてよかったです! 大好きです!」


 二人にお礼を伝えるとフローラはそのまま崩れ落ちた。


「フローラ嬢!?」


「ああ、こんな清い子を総受けに考えていたとは、私は貴腐人失格ですわ」


「大丈夫よ! 私も清い子がズブズブに犯されるのが大好物よ!」


 何を言っているかわからないが令嬢二人は熱い握手をしていた。そこには僕の入れる居場所はないのだろう。


 そう思った僕は再び、食事が乗ったお盆を取りに戻った。


「皆が良ければタンジェとカイトくんも一緒にご飯を食べても良いですか?」


 いつのまにかタンジェが交渉したのだろう。


「さすが私の婚約者! 動きが早いわね」


 みんなが頷いてたため、僕達は一緒に食事をすることになった。


 本来ならここで攻略対象のレオン、クラウス、タンジェ、レインが揃い、フローラ男爵令嬢と知り合う最初のイベントだった。


 しかし、モブである僕の存在と二人の令嬢の仲によって違う形で物語は進んでいくこととなる。

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