第11話 モブはひっそりと
これは編入した日の出来事だ。チャイムの音で生徒全員が自身の席に座ると眼鏡を掛けた担任のウィン先生が入ってきた。
「さっきの時間にできなかった自己紹介をしましょうか。では、二人を知っているマリアさんからお願いします」
「わかりました」
前の方の席にいるマリアから順番に自己紹介が始まった。
「お二人とも昨日振りですね。マリア・カーティスと申します。公爵令嬢ですが家柄関係なく話してくれると嬉しいわ。お茶会を定期的に開こうかと思ってますのでぜひ参加してください」
見た目はドリルヘアーと貴族感が滲み出ているが、人当たりの良さが雰囲気から出ている。
自己紹介が進む中、鑑定魔法を発動しているとやけに赤色ゲージと桃色ゲージが50%と高い人が多かった。
特に自己紹介した後にトイレに行った少年だ。
「次は俺だな! クラウス・デアーグだ! カイトだっけ? 俺と友達になろーぜ」
「おい、クラウスここは自己紹介する場面だぞ」
「すんません。勉強も魔法もあんま好きじゃねーが剣術は得意だ。まぁ、動くのが好きなだけだな。よろしくー!」
見た目が赤みが強い茶髪の短髪で身長も前世の僕よりも高そうだ。若干ノリは軽いが人懐っこい雰囲気が特徴的。
それから自己紹介が進み、男子生徒十二人、女子生徒六人の自己紹介が終わった。
クラスは全員でカイトとフローラを含めて二十人と他のクラスより少なめの人数構成となっている。
「これで授業を終えます」
チャイムが鳴り、ウィン先生が教室から出るとクラウスが僕の下まで走ってきた。
どことなく犬っぽい姿につい微笑んでしまう。
「カッ……カイト、俺クラウスだ! よろしくな!」
目の前に出された手を優しく握る。
「クラウスくんよろしくお願いします」
「あー、クラウスでいいぞ」
僕は再びクラウスの手を両手で握り微笑んだ。今日のデイリークエストには両手で手を握って微笑むと書いてあった。
ここで初めてデイリークエストの攻略の仕方を理解した。
「うわー、思ったより破壊力強いな」
「破壊力?」
「いや、笑顔も可愛いなってこと!」
「笑顔ならマリアさんとかフローラさんの方が可愛いと思いますよ? 」
モブに急に可愛いと言われても困る。笑顔が似合うのはヒロインの二人だ。
「うん、やっぱいいな! これからよろしく。俺が初めての友達か?」
「いや、初めてでは……」
答えを聞いてクラウスは若干ションボリしていた。犬の耳が生えていたらきっと垂れ下がっているだろう。
「あー、男性では初めてですよ。一番はマリアさんが声をかけてくれました。 優しい人で容姿も綺麗ですし、周りを気にかけてくれる人だと思いました」
友達かはわからないが、一番初めに話したのは職員室前で会ったマリアだった。モブの僕に友達と言われて嫌だろうが、優しいマリアなら何も言わないだろう。
「だってよ!」
遠くから耳だけ傾けていたマリアは突然のことで項垂れていた。
モブなのに僕の声がマリアまで届いていたのだ。
「なんでここで私を呼ぶのよ! 良いところだったのに!」
「なんだ、良いところって?」
「あなたは気にしなくていいのよ!」
ひょっとしたら寝ているところを邪魔していたのかもしれない。前世の僕もよく休み時間になったら寝ていた。
「今度お菓子を持ち寄って、お茶会をする予定ですがどうかしら?」
「お茶会ですか?」
「うえー、男はお茶会なんて行かないだろう? あんな甘い物を食べてずっと話すなんてつまらないだろう」
クラウスはお茶会があまり好きではないようだ。美味しい物を食べながら、話すって楽しいと思うが……。
「別にあなたは誘ってないわ!」
「お茶会は初めてなので作法とかわからないですが大丈夫ですか? せっかくマリアさんに誘ってもらったのに迷惑かけたりしたら……」
この世界の貴族との関わりを知らない僕は、礼儀作法も転生前の知識程度だった。貴族どころか、人との関わりがない僕にしたら少し心配だ。
「あー、そんなのは気にしなくていいわ。それよりも私の呼び方はマリアでいいわよ」
「誘ってくれてありがとう。マリアさん……いや、マリア」
僕は満帆な笑みをマリアに向けると目の前にいたマリアとクラウスは顔を赤く染めていた。二人とも体調が悪いのだろうか。
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