第8話 先生! 男子が帰ってきません!
次の日、職員室に行くと担任の先生であろう人に声をかけられた。
「君がカイト・マーブルくんで間違いないかな?」
眼鏡をかけた優しそうな男性に声をかけられて、僕の目はキラキラとしていた。
彼もレインと同じで"恋する魔法学園"のゲームパッケージに載っていた一人だ。
このゲームには教員も一部攻略対象になっている。噂で聞いたことしかないが、ヒロインが学生のため攻略難易度が高かったのが特徴らしい。
「私はカイトくんの担任になりました。ウィン・クロウと申します」
頭の中では広告宣伝である攻略対象の紹介と一言が脳内で流れている。改めて本当に乙女ゲームの世界に転生したと実感した。
「カイトくん大丈夫ですか?」
「あっ、はい!」
声をかけられた僕は意識を戻すと、ウィン先生の後ろに一人の女子生徒が立っていた。
「ヒロイン!」
僕の声に女子生徒はビクッと驚いていた。目の前にいたのは、ゲームパッケージの中心人物だったのだ。
「あっ、すみません。あまりにも綺麗だったので驚いて声が出てしまいました」
適当に言い訳を考えた僕の発言に、主人公である女子生徒は少し顔を赤く染めていた。少し怒っているのだろうか。
「いえ、私の方こそ挨拶が遅れました。フローラ・ラビリンスです。家はラビリンス男爵家ですのであまり気を使わなくても大丈夫です」
お淑やかに笑ったフローラは緑色の髪の毛に、髪の毛よりも薄い緑の瞳をしている。ヒロインだからなのか、今まで見たこともない美少女だった。
「僕の方こそフローラさんに挨拶が遅れました。カイト・マーブルです。マーブル商会の次男ですが、何か必要な物があれば声をかけてください」
自己紹介をしながら僕はちゃっかり店の宣伝をしておいた。商人魂があるのを忘れてはいない。
「二人とも挨拶は終わりましたね。これから二人は編入学生として私と一緒に教室の中に入ってきてください」
「はい」
カイトは緊張しながらも担任であるウィン先生について行った。
♢
「僕はモブ! モブ!」
僕はウィン先生が開ける教室の扉の前でぶつぶつと唱えていた。
「大丈夫ですか?」
「こういう人が多いところに出るのって緊張するんですよね」
「ぐふっ!?」
少し震えながらもフローラに微笑みかけるとウィン先生とフローラも震えだしていた。フローラに関しては何か吹き出しそうになっている。
家族や商会の人しか会っていない問題が、ここに出てくるとは思いもしなかった。
「カイトくん大丈夫ですよ。僕が君を守ってあげるからね」
そんな僕にウィン先生が優しく手を握り、耳元で囁いていた。やはり頼りになるのは大人だ。
「ありがとうございます! ウィン先生大好きです」
僕はウィン先生に優しく微笑んだ。
「ああ……これは股間に来るな……」
「グフフこの年で無自覚とは最高ね。ウィン×カイト最高よ」
どこか二人は違う世界に旅立っているようだ。
「不覚にもやられましたわね」
「フローラ嬢も気をつけた方がいいですよ」
「二人ともどうしましたか?」
「いえ、カイトくんは心配しなくて大丈夫です。では中に入りましょうか」
ウィン先生が扉を開けるとフローラの後にひっそりと教室に入った。
モブが一番初めだと目立ってしまうからね。
♢
教室に入ると話し声はすぐに無くなり、視線がウィン先生に集まっていた。
「えー、昨日話しはしましたが今日から二人編入生が入ります。挨拶をお願いします」
「ぐふふふ」
フローラはまだどこか別の世界に旅立っていた。一応主人公のはずだが、すでにキャラが壊れている。
「フローラさん?」
「あっ、申し訳ありません。この度編入することになったフローラ・ラビリンスです。たくさんの思い出とお友達を作りたいと思いますのでよろしくお願い致します」
フローラは軽くスカートを掴み、カーテシーのように挨拶をした。この学園も日本ゲームだからか日本ブレザーのような制服を着ているがさまになっている。
さすが主人公補正なのかフローラの挨拶に男女関係なく見惚れていた。
ちなみに
「カイトくんお願いします」
「ははははい!」
急に話を振られてびっくりしたが、事前に考えていた自己紹介をすることにした。
「今日からお世話になります。カイト・マーブルです! 少しでもみんなと楽しい
挨拶を終えると、教室の中は息を飲む音さえ聞こえなかった。やはりモブだからか聞こえなかったのだろうか。
――バン!
「先生トイレに行ってきます!」
机を叩く音とともに一人の男子生徒が立ち上がると、次々と男子生徒達は教室を後にした。
「お世話になりますって……今頃みんなのお世話になってるだろうな。濃厚な時間って今すぐ俺も過ごしたいわ」
隣でウィン先生も小さな声でぶつぶつと呟いていた。
「ウィン先生……僕嫌われましたか?」
「あっ、いやそんなことはないけど先生も色々と辛いかな」
ウィン先生も少し腰を引き、机に近づいて立っていた。何かを隠したいのだろうか。
「じゃあ、カイトくんは一番奥の席でフローラさんはマリアさんの隣でお願いします」
ウィン先生が指を指したところは、モブの定位置である席の後ろの一番角だった。
「フローラさんこちらです」
声をかけたのはマリアだった。
「マリアさん!」
フローラは事前にマリアと仲良くなっていたのか、隣の席に座ると既にはしゃいでいた。正確に言うはしゃぐというよりは、見てはいけない何かが渦巻いているような感覚だった。
自分の席に座るとそんなマリア達を見ていたら、少しずつ前世の記憶を思い出した。
フローラは主人公(ヒロイン)として編入し、マリアという悪役令嬢に邪魔をされながらゲームが進んで行く。そのはずが今は二人とも仲が良さそうだった。
その後、男子生徒達が戻ってくると授業が始まった。
僕はこの世界に来てはじめての学校生活を楽しみにしていた。
ウキウキした僕は大きな椅子の上で足をぶらぶらと動かした。
時折チラチラと視線を感じていたが、その後も男子生徒達の中で立ち上がれなくなった子が数人いたとか……。
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