第7話 貴腐人の嗜み ※マリア視点

「ジュフフ、もっとやってちょうだい」


 私は職員室の中から外の様子を見ていた。あのマーブル商会の長男が弟を溺愛しているとは思いもしなかった。


 前世で爆発的に売れた"恋する魔法学園"に転生した貴腐人の私は、やっとBLモブルートである彼に会うことができた。


 原作では顔は常に光で見えなかったが、実物は直接見るのも辛いぐらい美少年だった。正直言って婚約者である皇太子のレオンよりイケメンだ。


 どこがモブなんだろうと疑問に思ったが、ゲームのBLルートである存在がやはりブサイクなはずがなかった。


「マリアさん大丈夫ですか?」


「あっ、今は外に出れないのですみません」


 中々外に出ない私に教師の一人が声をかけてきた。この先生もBLルートの攻略対象の一人だ。


 そんな私もこのゲームの中では悪役令嬢と言われているマリア・カーティスだった。


 目が覚めた瞬間に自分が、この世界に転生したことはすぐにわかった。何度も伸ばしても伸びない金髪のドリルヘアー。どれだけこの人物に苦しめられたか、BLルート以外をクリアした私はマリアの存在を一番知っている。


 婚約者であるレオン一筋で、この国の皇太子妃になるために周りの令嬢達に嫌がらせをして、断罪される令嬢。それが本来の私の役目だ。


 だが、貴腐人の私がこの世界に来たからには彼女……いや、私の人生は私が変える。


 BLルートの存在を知っている私からすれば、リアルBLライフを楽しめないのは勿体ない。


 全貴婦人……いや、腐った大人達の夢は私が叶えるつもりだ。


 現に目の前ではイケメン二人が絡み合っている。(※ここではカイトがタンジェの頭を撫でているだけだ)


「あー、いいわ。まさかの兄弟愛がこんなとこで見られるなんて」 


 私は血眼になるぐらい目を見開き二人を見ている。まさか最終的にはレオンの側近になるタンジェのあんな姿を近くで見られるとは思いもしなかった。


 さすがBLルート神だ!


 ちなみにカイトと同じ時期に編入してくるのが、恋学のヒロインである。私はこのBLルートを邪魔する者には容赦なく虐めることを前から誓っている。


 断罪されるのは嫌だが、推し達が楽しく生きていけないのも嫌なのだ。


「マリアさん何か良からぬことを考えてませんか?」


「そんなことはないですわ。私も失礼しますわ」


 よだれが垂れていた私は急いで口元を拭いた。まだ先生が私を見ていたのだ。自分の趣味がバレたと思いドキドキするが、そこは長年学んだ貴族の演技で焦りを外に出さないように演じる。


 スカートの裾を持って、軽く膝を曲げて小さくお辞儀をする。


 この優雅なカーテシーをすれば、誰でも私のことを本物の貴族だと思うだろう。


 これが転生の時に得た私の転生特典だ。


 職員室から出た私は早速寮に戻ることにした。


「グフフ、これで二次元創作が捗り……あっ、ご機嫌よう!」


 どれだけ気持ち悪い姿を見せたとしても、カーテシーをすれば多少安全なのよ。

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